東京工芸大学は、文部科学省の平成 28 年度「私立大学ブランディング事業」において、『「色」で明日を創る・未来を学ぶ・世界を繋ぐ KOUGEI カラーサイエンス&アート』というテーマで選定されています。これに関連して、東京工芸大学では、毎年、教員から「色」をテーマとした研究課題を募集し、助成を行っています。令和元年度は、化学・材料コースから3件の研究課題が採択されました。
そこで、この場を借りて、今回採択された研究テーマや、既に終了した過去のテーマについて、順番に紹介します。今回は第2回目として、山田勝実教授の研究を紹介します。研究テーマ名は「金属ナノ構造電極を用いたエレクトロクロミック表示の耐久性向上」です。
以下に、山田先生ご本人に解説を頂きました。どうぞ。
近年の電子ディスプレイの発展は目覚ましいものがあり、私たちの生活になくてはならないものとして浸透しています。テレビ、PC、タブレット、スマホなど、これらの電子ディスプレイに接しない日はないといっても過言ではありません。
一方、それらを見る人間への負担あるいは地球環境への負担という観点での進歩も進んでいます。その代表は、電子ペーパーとよばれる反射型の電子ディスプレイです。これらのディスプレイの表示は、印刷物と同じ拡散反射で目に優しいという特徴を有しており、いったん表示された内容・コンテンツを維持するために、継続的に電力を消費しなければ、環境にも優しい電子ディスプレイになるに違いありません。
これらの条件を満たす表示方式として私達が期待しているのは、まさに色材の着色消色・変色を電気的に制御するエレクトロクロミック(EC)方式です。
液晶方式とほぼ同等の長い開発の歴史があるにもかかわらず電子ディスプレイとしての実用化が遅れています。その主な理由は、印加電圧の単純な ON/OFF では制御できないこと、耐久性が低いこと、表示の切り替えが遅いことなどです。特に耐久性に関しては、問題が山積しています。
私達は、私立大学ブランディング事業の中で、耐久性の向上に取り組んでいます。
EC 現象を示す物質は電極を用いて電荷(電子や正孔)を注入したり、抜き取ったりして電気的に着・消色をコントロールされます。実は、電極の働きはこれだけにとどまりません。電極表面の形状をナノサイスで工夫(形状設計、形状再現)することで、EC 物質の電極からの剥離を抑制でき、さらにより低い電圧で強い着色を実現できる可能性があります。
写真1 実際に着色した透明電極
写真2 写真1の電極表面の電子顕微鏡画像(白い粒は「金」)
第1回目の「黒鉛層間化合物の色標本の作製-色の分析とその活用-」はこちら。