工学部 基礎教育研究センター

方程式ということばの2つの意味を区別しよう

数学では、ことばの意味を定義するという慣習があります。この、ことばの意味を定義するという慣習は、厳密な議論をしたい、誤解をなくしたいという欲求から生まれました。

「方程式」は数学では重要な用語ですが、このことばには異なる2つの意味があります。

中学、高校の数学では、「1次方程式」、「2次方程式」という単元があります。一方で、直線の方程式や円の方程式について学ぶ「図形と方程式」という単元もあります。この2つの分野で使われている方程式は、同じことばなのだから、同じ意味だろうと思うかもしれませんが、区別しておいた方が理解しやすいでしょう。

1次方程式は解くためのものです。たとえば、次の問題があるとします。

問題1 次の方程式を解け:x+3=4

解答 両辺に -3 を加えて、(x+3)-3=4-3 と変形し、ここで、左辺の括弧をつける位置を変えて、x+(3-3)と直し、3-3=0 を使うと、x+0=4-3 となります。さらに、x+0 は x となります。4-3 は 1 となります。よって、x = 1 となります。

このように文字 x を含む方程式を「解く」とは、それを「x = **」の形に直すことであり、このとき、未知数 x の値が求められた、あるいは求まったといいます。(求まったは、関東地方の方言です。)「**」の部分には x が含まれていてはいけません。2次方程式、3次方程式についても同様です。

上の解答の途中のプロセスで、「x+0 は x となるから」の部分を「0 は消してよい」と習った、あるいはそう覚えている人がいるかもしれませんが、そうではありません。正しい法則は、「すべての数 a に対して a + 0 = a」です。また、「すべての数 a に対して 0×a = 0」という法則もあります。このように、0 という数は数式の中のどこにあっても「消える」わけではないのです。数式の中で数 0 がどこにあって、どのような役割を果たしているかによって、使用できる法則(公式)は異なります。

さて、一方、「方程式」ということばには、別の意味もあります。たとえば、

問題2 平面上の2点 A(0, 0)、B(0, 2) から等距離にある点 P(x, y) が満たす方程式を求めなさい。

解答 点Pが満たす条件は、PA=PBである。2点間の距離の公式を使うと、PA^2 = (x-0)^2+(y-0)^2 = x^2 + y^2 であり、PB^2 = (x-2)^2 + y^2 であることがわかる。PA = PB から
x^2 + y^2 = (x-2)^2 + y^2
となり、(x-2)^2 を展開すると x^2 – 4 x + 4 となる。これから、整理すると、-4 x + 4 = 0となり、x = 1 となります。

この解答を見ると、問題1の解答と同じだと思う人がいるかもしれません。確かに、x = 1 という答えだけを見ると同じようにも見えますが、意味はまったく違います。問題2の答えの x = 1 は、点 (1, 0) を通り、y 軸に平行な直線を表しているのです。問題2で求められたものは、x の値ではなくて、条件を満たす点 P の全体が作る図形(すなわち、点 P の軌跡)の方程式です。

このように、同じ数学という科目の中で方程式という同じことばが登場しても、その文脈によって、まったく違う2つの意味があることがわかるでしょう。

逆に、これらの2つの「方程式」が同じ意味だと思ってしまうと、混乱の原因になるかもしれません。同じと考えても、ある意味では間違いではないのですが、それは「大らかな」観点から見た場合です。実際に数学を理解し、問題を解くという現実的な目的からは、方程式という1つのことばがもつこれら2つの意味は違うのだ、違う概念をたまたま同じことばで表しているのだと思ったほうが、数学をきちんと理解できるのではないでしょうか。

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