工学部 基礎教育研究センター

6 オイラー-マクローリンの和公式

みなさん、こんにちは。みなさんというのは、もちろん、いまこのブログを読んでいるあなたのことである。そして、いま、私はブログを書いている。ということは、また水曜日がめぐってきたことを意味するわけである。

今日は、オイラー-マクローリンの和公式について書こうと思う。この公式をご存じだろうか。オイラーとマクローリンという、18世紀を代表する二人の数学者の名前がついたこの公式は実に不思議な公式である。公式自体も十分に不思議なのだが、これは数学(の解析学という分野)の実にさまざまな部分とつながっている。このようなものがこの世に存在すること自体が奇跡だとしか私には思えない。

和公式という名前からして、何かの和を求める公式なのだろうな、ということは推測がつくだろう。だが、何の和を求める公式なのだろうか。実は、この公式を導いたオイラーが最初にたてた問(とい)は、次のような問題である。

問題 関数 f(x) が与えられたとき、和
S = f(1) + f(2) + … + f(n) = \sum_{i=1}^n f(i)
に対する公式を見つけよ。

まず、この問題設定そのものからしてすごい。スゴスギル。要するに、どんな式 f(x) が与えられても、上の和 S が求められるような公式を見つけなさいということなのだから、驚く。いったい、そのような企てが成功する目論見があったのだろうかと疑われる。

これがどのくらいスゴイことなのかを説明するために、高校の教科書を見てみよう。

たとえば、f(x) が 3 x + 4 のような1次式(1次関数)だったしよう。すると、問題は「等差数列の和の公式を見つけよ」ということと同値である。また、f(x) が「指数関数の定数倍」というの範囲の関数、つまり、f(x) = A × b^x の形の式だったとしてみよう。すると、この場合には、上の問題は「等比数列の和の公式を見つけ出せ」ということになる。これらの和公式については、知っていますね。

高校で習った(あるいはこれから習う)数列の和の公式の主なものはこの二つであり、それ以外に、教科書に公式として載っているのは、せいぜい、平方数の和の公式

  • 1^2 + 2^2 + 3^2 + … + n^2 = n (n+1) / 2 というやつですね

と、立方数の和の公式

  • 1^3 + 2^3 + 3^3 + … + n^3 = n (n+1) (2n+1) / 6 というやつ

ぐらいなものなのだ。そのほかには、ちょっとした工夫で和が求められる数列が例題あるいは問題としていくつか登場する程度である。

それに対して、オイラー-マクローリンの和公式というのは、どんな公式なのかまだ説明をしていないが、f(x) が x のどんな関数の場合にも通用する和公式なのだから、これを「すごい」と言わずして、いったい何を「すごい」というべきでありましょうか(と、私は思うのだが、だれか、そうだと言ってくれるヒトはいないかな)。とにかく、この公式を使えば、

  • 1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + … + 1/n

のような和や、

  • log 2 + log 3 + log 4 + … + log n

のような和まで計算できてしまう(はずであり、少なくとも、適当な場合には実際に有効であることが確かめられている)と言えば、そのすごさがわかってもらえるだろうか。

ただし、ここで、「計算できてしまう」とはどういうことかについて、少し注釈が必要かもしれない。というのは、解析学(=微積分法発見以降の数学)にはよくあることなのであるが、この公式の右辺は無限級数になっているのである。無限級数というのは、要するに無限個の項を含んだ式という意味で、その値を正確に計算するには、無限個の項を足さなくてはならず、それには多くの場合、工夫がいる。いまどきの「デジカメ」のように、誰でも使える公式ではなく、昔の「ライカ」みたいに、勘と経験と論理的センスがなければ使いこなせない公式なのだ。

さて、このようなすごい公式なのあるが、いきなり見てもあっけにとられるだけだと思う(私の場合がそうだった。—いったいどうやってこんなことを思いついたのか?と、気が遠くなる感じがした)ので、一歩ずつ、少しずつ導いていく過程を見せながら、最後に公式を見せるという順番で書いていこう。

ます、S = f(1) + f(2) + … + f(n) を求めるために、これをひとつずらした和

  • s = f(0) + f(1) + … + f(n-1)

を考える、というのがオイラーの第一のアイデアである。これは、そんなに不自然な考えではなく、和を求めるときには誰でも思いつくことである。一般化していうと、ある問題を考えるときに、それと似ている問題を引き合いに出してみる。たとえば、sin x についてのある公式を証明しなければならないとする。そういうとき、それと同じ程度の複雑さをもつ cos x に関する公式をもってきてペアを作ると、あら不思議、簡単に解けちゃったということはよくある。あるいは、A+B の値を知りたいとき、それとは直接関係はないが、似たような式として A-B をもってきて、一緒に考えていると、両方の答が同時に出てきてしまうなんていうことも、少し数学の世界になじんでくると、よくあることだと納得できるようになるだろう。

S と s を見比べていると、差 S – s を考えてみたくなるのが人情だろうと思う。実際、S と s とではほとんどすべての項が共通なので、差をとると最初と最後以外は消えてしまい、S – s = f(n) – f(0) となるのである。

さて、次である。f(n) – f(0) という式の形を見て、何かを思い出さないだろうか。もし、あなたが微積分を勉強した高校生ならば、

  • f(n) – f(0) = \int f'(x) dx (x = 0 。。。 n)

と変形できることがわかるはずだ。つまり、導関数 f'(x) を 0 から n まで(つまり、区間 [0, 1] で)積分すると、f(x) の境界値(つまり、区間の両端での値)の差になるのである。これが微積分学の基本定理と言われるもので、つまり、積分の考え方の本質である。

ところで、差 f(n) – f(0) にはもう一つの表し方があるのは知っているだろうか。ヒントを出そう。上ではこの差を積分の形で表したが、実は微分を使った表現法もあるのだ。それは

  • f(x) = f(0) + f'(0) x + f”(0) x^2 / 2! + f”'(0) x^3 / 3! + … (無限和)

という公式である。移項すれば、f(x) – f(0) = (ほにゃらか)という形にすぐ変形できるのは良いだろう。これを f(x) の「マクローリン級数」による表示という。この公式、あるいは、もっと一般にテイラー級数による表示式

  • f(x) = f(x_0) + f'(x_0) (x-x_0) +f”(x_0) (x-x_0)^2 / 2! + f”'(x_0) (x-x_0)^3 / 3! + … (無限和)

は、先ほどの積分表示に負けず劣らず自然な式であるし、実際、高校の教科書の付録あたりに載っていることが多いので、いまは、これは知っているものとする。この公式を f(n) – f(0) に使うのではなくて、

  • S – s = \sum (f(i) – f(i-1)) = – \sum (f(i-1) – f(i)) (i = 1 … n)

のそれぞれの項に対して用いよう。そうすると(x_0 = i、x = i – 1 としてテイラー級数の式にあてはめて)、

  • S – s = – \sum(i=1,…,n) ( -f'(i) + f”(i) / 2! – f”'(i) / 3! + … )

となる。以上から、結局

  • \int(x=0,…,n) f'(x) dx = \sum f'(i) - 1 / 2! \sum f”(i) + 1 / 3! \sum f”'(i)  – …

となることがわかった。ここで、右辺の \sum は面倒なので式の中では省略してあるが、すべて i=1,…,n にわたる和である。

ここで、ちょっとだけこの式を使いやすい形に変えておく。この式の両辺にある f(x) を一斉に f(x) の原始関数に置き換えるのである。

少しだけ言い訳をしておくと、この等式は f(x) がどんな関数であっても成り立つのであった。実際、ここまでの式変形は、移項、テイラー展開、括弧を外す変形(分配法則)などしか使っておらず、f(x) の具体的な形が何であるかという情報はいっさいどこでも使っていない。なので、f(x) を別の関数(といっても無限回微分可能などの条件は仮定して)に取り替えても、依然として成り立つはずである。

要するに、式の形の上で、f’ を f に、f” を f’ に、などなどと、書きかえるだけなので、

  • \int(x=0,…,n) f(x) dx = \sum f(i) - 1 / 2! \sum f'(i) + 1 / 3! \sum f”(i)  – … (^^)

となる。

これは重要な式であり、後の式変形でたびたび引用するので猫ちゃんマーク (^^) をつけておく。

ここまでが、いちおう、オイラーの第一のアイデアと、そのアイデアを実行してわかる結果である。

この式 (^^) は今回のテーマであるオイラー-マクローリンの和公式そのものではなく、その前段階である。

この式(^^)の意味を図示してみると面白い。積分はグラフの下の面積を表すのだった。関数 f(x) が正で単調増加である場合と、正で単調減少である場合のそれぞれに概念図を描いてみると、図のようになる。

(ここに図を入れる)

右辺の1項目と2項目までの意味が図示されている。要するに、グラフの下の面積(定積分で表わされる)対応する棒グラフ(小学校的な言い方ですね)の面積と、棒グラフの棒の先の部分の三角形のような領域の面積に分けて考えると、棒グラフの面積は最初の和に他ならず、棒の先のそれぞれの直角三角形のような形の斜辺(割線)を、各点での接線で近似したものが2番目の和であるというわけである。係数として 1/2 が登場しているのは、小学校で習った三角形の面積の公式(底辺×高さ÷2)の「÷2」にまさしく対応しているわけである。

今週は疲れたので、この辺にしておこう。次回は、いよいよオイラーの第2のアイデアが登場する。それに従って実際に計算を実行すると、求める和公式を導くことができる。

(この項おしまい)

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