工学部 基礎教育研究センター

猫写し

ずいぶん昔のことになるが、高校数学に行列が導入されたとき、数学教育協議会の小沢健一先生(だと思う)が「ネコ移し」という教材を開発された。(以下では、「猫写し」と書く。)これは、ある図形を多角形で表し、その頂点の座標に1次変換を施して新しい点をグラフ用紙(方眼紙)に取り、結ぶとどんな図形になるかという作業型の教材であるが、「ある図形」が猫の歩く姿となっているところがいかにも可愛く、(教材開発をした先生はさぞかし)頑張ったなあと思わせる「作品」である。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~simomac/grimg/grp18.htm

ネコの姿が1次変換でゆがんだり、伸びたり、回転したりするようすを生徒たちが調べるという教材だが、その素材となる図形に対称性があるとうまくいかない。図形そのものがもつ対称性が邪魔をして、1次変換の性質が浮かび上がってこないからだ。

そういうわけで、この教材はカワイイだけでなく、かなりの「スグレモノ」である。あれからずいぶん時間が(時代が?)経過し、高校の課程も変わってしまったが、一部の教師の間ではいまだに根強いファン意識があるのである。

数学では、例が大切で、自分でいろいろ計算してみなさいとはよく先生から言われることばだが、例と言っても「猫写し」のような複雑なものは数学の先生は好まないことが多い。数学は本質的な理論が大切で、例はなるべく単純な中にも本質を捉えたものがよい(←この部分、おいしんぼのセリフに似ている?)と思われている。そこで、勢い、正方形とか長方形くらいを変換して、ほら、平行四辺形になりましたよ~で、お茶を濁すことが多いのだ。

しかし、ここには陥穽がある。正方形が平行四辺形に写ったとして、では、各頂点はどの頂点に写ったのであろうか。正方形の中に何かの風景写真でも入っていれば一目瞭然なのであるが、何もないただの正方形を見て、対応する平行四辺形を見ただけでは、大切な情報を見落とす危険性がある。全体の印象で、平行四辺形になったから、まあ、いいかと思っていると、実はそれが裏返っていたり、回転していたりすることに全く気付かないことも起こり得る。

数学の時間に習う段階ではそれでいいのかも知れない。細かいことはさておいて、大体、理論通りになっているなあという理解で先に進み、実際に応用する場面になって具体的な計算で苦労する方がいいのかも知れない。

たとえば、円のパラメータ表示 x = cos t, y = sin t も、この式の通りに点を追っていって、たしかに反時計回りに回っているなと納得することは大切だが、応用現場に出た時に sin と cos を取り違えて描いたら逆回りになっちゃったあ!というような苦労の体験を通して将来的には身に着くものなのかもしれない。。とも思うのである。

少し話が本題からずれたので、ネコ写しに戻る。

可愛らしさ無限大の小沢ネコを真似るのは、ちょっと気が引けるので、オリジナルの猫ちゃんの画像を作ろうと考えた。その結果できたのが次の画像である。

ネコ写しのもとになる猫ちゃんの画像

この画像は Mathematica で描いた。

全体の顔の輪郭は楕円である。横と縦の長さの比(長径と短径)が4:3になるように描いている。耳は放物線である。目は円である。6本の髭は線分で、目の下のあごの線は円弧である。最後にリボンをつけたが、これはリサージュとよばれる曲線である。リサージュは高校の数学Cの教科書の「いろいろな曲線」という章(単元)に載っているが、x = sin t, y = sin 2t という式で定義される。

全体をバランスよく配置すると、図のような猫ちゃんになるが、これも(小沢ネコには及ばないが)なかなか可愛いであろう。

可愛くするには、いろいろ工夫をしている。一番のポイントは目の位置だろう。目と目の間の間隔は短いほど可愛い。それから、耳の高さにも簡単な整数比を用いた工夫が施されている。

実は、この絵には非常に雑に手で描いた下絵があるのだが、見比べるとほとんど印象的には変わっていない。手描きの絵は有る程度粗雑な方がいいのかも知れない。

これで、図形の変換を研究するためのもとになる絵はできた。あとは、この絵をコンピュータを使っていろいろ変換してみるだけである。

例えば、平行移動は顔の中心の座標を指定するパラメータの値を変えるだけでできる。中心を (0,0) とした図と、中心を移動させた図を重ねて描くと下図のようになる。

猫ちゃんが2匹(平行移動)

この図では「平行移動」という変換を用いたが、このようにいろいろな変換をすることで、平面の図形の変換についての理解を深めることができるだろう。

方眼紙に点をひとつひとつ取っていく楽しみも忘れてはならないが、コンピュータの発達のおかげで、このような図が私のようなコンピュータの素人でも簡単に描けるようになったのはありがたいことである。

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