*この記事は中路真紀基礎教育准教授が執筆しました
こんにちは、中路真紀です。基礎教育でキャリア教育科目を担当しています。私がクリエイターとして仕事を得てから四半世紀が経ちました。今回のブログは自分のキャリアを振り返りつつ、学生の皆さんに対して未来のクリエイターに必要なことについて書いてみようと思います。
私のクリエイターとしてのキャリアのスタートは、プレイステーションという新デバイスのコンテンツを検討するSMEの研究開発部署でした。当時作り込んだ重いデータのCGをレンダリングするにはとても負荷がかかり、PCではなく、SGI Onyxというワークステーションで作業をしていました。それはとても高価なマシーンで、設置されたときにはお祝いのシャンパンを抜き、ソニーの役員の方も見学に来られたほどです。ゲームの仕事をしつつ、レンダリングの合間にテレビ番組のオープニングやバーチャルスタジオ、CMやMVの仕事をこなし、寝袋で眠る毎日でした。今はメーカーや研究所とともに、UI UXやアプリ、WEB、VR AR MRなどのデジタルコンテンツの企画提案や開発に携わる仕事をしています。次々に生み出されるデバイスを用いて、その仕様を紐解きながら実装方法を検討し、様々なソフトウェアを使いながら、コンテンツを制作してきました。振り返ると技術の進歩は本当に早いと実感しています。今やiPhone Proに搭載されているLiDARスキャナで3Dデータにあっという間にできるのですから。AI技術を用いた自動生成画像も精度も上がってきました。今後、技術の進化はさらに加速していくと予測されています。そのような流れの中でクリエイターの仕事はどう変わっていくのでしょうか。
クリエイターの仕事の内容を分解すると、ゼロから生み出す仕事とオペレータ的な仕事に分かれます。単純化しやすい仕事は、ソフトウェアの進化でどんどん作業効率が上がっていきます。今までパスを使って切り抜きをしていたマスクや、自然光のライティングや物理演算のアニメーションなど法則に基づくものは、今までパラメータの数値をクリエイターが試行錯誤してきたことがボタン一つで設定できるようになりました。そしてアセットと呼ばれる素材データが大量に出回っています。その分、単純作業にかかる時間は大幅に削減されるわけですから、単純作業のみを自分の仕事にしていた場合はポジションがなくなるかもしれません。
一方、アイディアや新しいデザインを生み出すことは自動化できません。最終的なゴールに近づくために、どうやったら実現できるのか、どのようなソフトウェアを用いて、どのくらいの工数がかかるのかを考えることは人間にしかできないです。コンテンツ制作の実現性と手法、予算と納期を見立てることはどのような業界の仕事でも必ず必要になってきます。だからこそ、クリエイティブな業界を目指す皆さんには、新しいことを恐れず、制作の現場で実際に手を動かして挑戦し続けてもらいたいと思います。
また、世の中のデジタル化、DX推進でデザイナーの仕事の範疇が拡大しつつあります。これは皆さんにとっては追い風です。例えば、IoTやデジタル化によってインターフェイスがアナログからデジタルに移行したことや、センサー技術などの活用が増えたことで、UIUXデザイナーという職業が重要性を増しています。また、新たな仕事の領域としてビッグデータの可視化や、感情といった曖昧なものについてもデザインが求められるようになってきました。そして、モノを作るだけでなく、アイディアのみを求められることも増えています。例えば、新しい技術をどのように魅せるのか、企業の問題解決や経営にデザイナーが参加することも増えています。そのため、コンサルティングファームによるデザイン事務所の買収や、デジタルコンテンツマネジメントコンサルタントとしての求人も見かけるようになりました。デザイナーの新しい仕事が広がっているのです。
新しい技術や仕事の範疇が広がっていくと、経験したことがない新たな仕事を依頼されることが増えてきます。やったことがない仕事を受けるのは勇気がいります。初めてのソフトウェアを仕事で使うのは抵抗があるでしょうし、大変な思いをすることもあると思いますが、恐れないでください。皆さんもプロになると色々な仕事のオファーを受けるようになると思います。つまらない仕事でも苦しい仕事でも、制作経験の積み重ねこそが自分の力になるのです。そして、仕事で受けた以上は絶対に納期までに完成させなければいけません。ですが、様々なソフトウェアを触った経験や、色々な仕事で身に着けた知識が結びつくと『予測する力』が養われてどうにかなるものです。また、仕事で関わった人たちが技術的に助けてくれることも増えていきます。面白いことに、ギャラは年月が経つと思い出すことはありません。
クリエイティブな仕事は楽しいです。夢中になると時間を忘れます。でも、ちゃんと食事をとり、寝てください。そして、年に一度1時間だけでも自分のキャリアについて考えてみてください。業界の変化や、自分自身の変化(家族の構成やライフスタイル、価値観など)も踏まえ、自分の現在地と目標を再確認してみてください。
- 身に着けているスキルは何か?証明できる作品はあるか?
- これから何をやりたいのか?
- そのために何を学ばなければいけないのか?
これから先、皆さんが学んでいるデジタルコンテンツの制作経験や知識が今まで以上に生かされる世界になるでしょう。クリエイターとして働くときにはもちろん、一般職で働くときにもそれは役立つはずです。
進化し続ける世界で、みなさんが活躍される未来を心より楽しみにしています!