芸術学部 基礎教育

リレー連載「明と暗、あるいは陽と陰」

*この記事は松中義大基礎教育教授が執筆しました。

先月20日、アメリカではバイデン大統領の就任式が行われました。昨年11月に行われた大統領選以降、様々な混乱が生じ、議事堂に暴徒が襲来するという事態にまで至りましたが、ようやく就任式を行うことが出来ました。前大統領によってさらに加速した感のあるアメリカ社会の分断をどこまで修復できるでしょうか。

この就任式で一人の女性が注目を集めました。アマンダ・ゴーマン Amanda Gormanという人です。彼女はまだ22歳、ロサンゼルスで生まれ、ハーバード大学で学んだ詩人です。2017年には全米青年桂冠詩人(National Youth Poet Laureate)に選ばれました。「桂冠詩人」というのは、古代ギリシア時代には存在したもので、特にイギリスでは王家が与える称号となり、例えばチョーサーやワーズワースのような有名な詩人が選ばれていて、王家の慶事や弔事に詩を読むという伝統がありました。アメリカでは、20世紀半ばから大統領の就任式で桂冠詩人が詩を朗読することが行われ、今日に至っています。

今回ゴーマンさんは「私たちが登る丘(The Hill We Climb)」という自作の詩を朗読しました。

https://www.youtube.com/watch?v=LZ055ilIiN4(朗読の動画)

全文のスクリプト、和訳はそれぞれ以下のサイトなどにあります。

(英文)https://edition.cnn.com/2021/01/20/politics/amanda-gorman-inaugural-poem-transcript/index.html

(和訳)https://www.buzzfeed.com/jp/rikakotakahashi/the-hill-we-climb-translation

私の専門は詩ではないので、詳しい解説はできませんが、22歳とは思えない格調高い内容だなあと感心しました。冒頭の、

When day comes we ask ourselves,

where can we find light in this never-ending shade?

に象徴されるように、 ‘day’ と ‘shade’ など、「明」と「暗」が至る所で対比され、あたかもトランプ前政権の「暗」からバイデン新政権の「明」への移行、が謳われていたように思います。私の専門分野のメタファーに関して言えば、「明」がよいこと、「暗」が悪いことに喩えられる、というのは英語に限らず様々な言語で見られるメタファーです。太陽が登り明るい世界では様々なものが鮮明に視野に捉えられる、見通せる(=理解できる)のに対し、太陽の沈んだ夜の世界は暗闇に支配され何も見えない、わからない状態、という対比は、どの言語社会であっても(あるいは、言語が誕生する前の社会であっても)人間としての原体験に根ざしているからなのかもしれません。

その一方で、「明」「暗」に対して言語や文化によって異なるイメージも存在します。例えば、この詩では「暗」から「明」へ一方向への移行、というイメージを強く受けます。こうした、一方向的な変化というものに対し、中国の道教に起源を持つ「太陰太極図」が表すように、「陰極まって陽生ず」などと言われ、陰と陽は循環するもの、という考え方は極めてアジア的なもの、と考えることもできるでしょう。

立春を過ぎて春へ向かう、陽が日に日に力を増す今日この頃ですが、コロナ禍を始めとした「陰・暗」の時期を早く脱したいものです。

リレー連載「地下コンコースでの展示から (2020,10~2021,2)」

リレー連載「#春からTPU」

大学公式サイトはコチラから
KOUGEI PEOPLE 東京工芸大学 学科・コースブログ集

最近の投稿

アーカイブ

大学公式Webサイトで
工学部・芸術学部の詳細を見る

PAGE TOP