みなさん、こんにちは、基礎教育の石川健次です。美術史、美術批評を専門としているため、よく展覧会にも足を運びますが、新型コロナウイルスの世界的猛威で今年のアートシーンは前代未聞の状況が続いています。展覧会の延期、中止はもちろん、美術館自体が長く休館を余儀なくされました。
6月に入って後、次第に美術館の再開、展覧会の開催など日常が戻りつつある一方、美術館への入館に際しては検温と手指の消毒を求められ、事前にネットやコンビニなどで日時指定チケットを購入しなければならないなど、慣れない〝新しい生活様式〟に少しばかりの窮屈を感じながら、でも安心、安全が何よりと消毒液を目にするたびに手指をゴシゴシしています。
世界各地からミニサイズの版画を募り、紹介するコンクール「第2回TKO国際ミニプリント展2020」(主催:同展実行委員会)が、8月3日から9日まで、東京・池袋の東京芸術劇場(地下1階アトリエイースト)で開かれます。その後、8月22日から同30日まで京都(京都市左京区、アートゾーン神楽岡)、9月4日から同16日まで大阪(大阪市堺区、ギャラリーいろはに)に巡回します。2016年の第1回展に続く開催です。ほぼ前回同様、41か国から342作家、602点の応募がありました。
私も審査に参加したこのコンクールは当初、6月にやはり東京を皮切りに開催する予定でしたが、感染拡大の防止のため延期されていました。審査が行われたのは初春でしたが、相応の注意を図りながら、今思えば予定通り開催できるだろうか……という危惧のなかでの審査でした。審査員は私の他、ミハエル・W・シュナイダー(美術家、東京藝術大学准教授)、笹井祐子(版画家、日本大学芸術学部教授)、野口玲一(三菱一号館美術館上席学芸員)の3氏です。
最高賞の金賞には、千葉尋さん(日本)の《倖せのあとさき/Afterwards》が選ばれました。図版に挙げた作品です。独自のテクニックを用いて、植物の葉にノスタルジックな、とはいえ時間的にも、空間的にもそう遠くない記憶、イメージを刻んでいます。
もう1点、図版に挙げたのは、佳作賞に決まった酒井みのりさん(日本)の《ペットボトルのキャップ》です。審査中、初めて見たときは描かれているのがペットボトルのキャップとは気づかず、いったんスルーしていました。もう一度見直したとき、はたとそれと気づき、タイトルを確認するとやはりそうでした。諧謔に富み、いったんはまるとそのおかしみに見るたび口元がゆるむ、そんな作品でしょうか。
この小文を書いている今、収まりつつあるかに見えた感染拡大が、再び勢いを増す気配を見せ始めています。コンクールの幕が開くことを祈るとともに、再び美術館の休館、展覧会の延期や中止がないことを心から祈ります。アートは不要不急ではないと心のなかで声高に叫びつつ、傷つき、失われてゆくかもしれないいのちを守る大切さに何より思いをめぐらせています。