芸術学部 基礎教育

リレー連載「日本庭園の中のサウンドインスタレーション」

*この記事は阿部一直基礎教育教授が執筆しました。

本学は、メディア芸術のクリエータースキルを学びたいという学生が多く集まってきますが、アート作品は、キャラクターの画像や映像をどのように造形するか、構成するか、の学びだけでなく、それらをどういった場所にいかにアウトプットするか、どのような媒体や手段でそれらをコミュニケートするか、も重要な検討要素となっています。言い換えると、アートの現在では、アウトプットメディアが多様化し、視覚的・聴覚的コンテンツがインスタレーションとして、いかなる空間や状況の下に提示されるかを作者が課題化する必要があり、アート表現の大きな探求点となっているのです。これらがリアル空間か、電子空間に置かれるかでも状況が変化し、複雑化する社会の渦中では、それらは完全に分離してはいません。そもそもインスタレーションとは、空間や時間に対してコンテンツを「インストール」することを意味しています。例えば、先史時代のラスコーやショーヴェの洞窟壁画は、洞窟という全体空間のインスタレーション表現として捉えることもできるわけです。そこでは、壁画と洞窟という環境を隔てて考えることはなかなか困難です。私の普段の授業では、現代アートや先端のメディア芸術を紹介し、その背景や文脈を解説することが多いのですが、その時には表現コンテンツだけにフォーカスするのでなく、コンテンツの置かれた社会空間や状況にも注視した話を心がけています。

私は、講義の他に、学外の仕事として、アート作品のキュレーションやプロデュースの仕事をしていますが、主にメディアアートのオリジナルの作品やアートプロジェクトを、構想の立ち上げからプロデュースすることにフォーカスしています。メディアアートは、先端的なテクノロジーを積極的にアートに応用するジャンルですが、それを視覚表現だけではなく、聴覚表現にもオンすることが重要だと思っています。昨今では、VR、ARなどのMR技術が開発の中心になっていくと言われていますが、それは視覚だけではなく、聴覚的なMRもかなりのリアリティを生み出し始めています。昨年2019年9月に、自身としてもかなり野心的な試みとして、大規模な日本庭園を表現空間として、そのためのサウンドアートプロジェクトをプロデュースしました。香川県丸亀市にある中津万象園と言う場所で、江戸時代に京極家が作庭した名園が舞台です。この日本庭園では、初の現代アートの展覧会ということで、最初から企画内容を検討したわけですが、伝統ある庭園風景にどこか異物としての視覚造形的な現代アートオブジェを設置するのは、ポジティブなソリューションとは思えず、最終的に庭園の外観は変化させずに音響的な環境をそこに加算していくクリエーションの方法を選択しました。庭はそのまま借景として、サウンドアートのみを各所に配置して、聴覚空間としての多感覚的な庭の存在や魅力を新たに引き出そうとするアイデアです。

この企画展のタイトルは「聴象発景(ちょうしょうはっけい)」と名付けましたが、そのモティーフは「瀟湘八景(しょうしょうはっけい:音感が類似しています)」という伝統的な中国古来の理想郷を描く、中世以来の画題から来ています。中世ではユートピアの風景描写をこう呼んで探求していたのです。中津万象園は、元々が近江近郊を領地としていた京極家が、江戸時代に瀬戸内海の丸亀に配置換えになり、当時の藩主京極高豊が、何もない場所に茶の湯文化を啓蒙するという目的のために、まず背景舞台として人工的な大型の日本庭園を作庭したのです。その非常にユニークな点は、京極の故郷の滋賀の近江八景である琵琶湖を模した池を縮約再現し、さらに内部各所に、近江八景から引用した八景島を自由にアレンジし、パッチワーク的に造作していることでしょう。同じ香川の先例である壮大な敷地を誇る高松市の栗林公園が、折衷混合様式型庭園であるとすると、万象園は武家を象徴する松林をベースに、全体の様式がミニマルに統一されており、1人のオーナーの主観的な妄想によって一気に作り上げられたものという感があります。近江八景島を全要素導入していますが、その位置関係はかなりデフォルメされており、実景間隔縮尺ではなく、記憶の強度による風景として、圧縮的な空間が池に接合されているのです。また庭園の外側には、青々とした瀬戸内海が隣接し、島々が松林越しに眺景されるという絶好のロケーションです。園の敷地は、どこか脳内空間的な縮約性を持つ庭として、全体が実験的なランドスケープインスタレーションになっている名跡と言ってもいいでしょう。江戸時代の作庭当時は、最新の現代アートだったわけです。

今回、その万象園を舞台として、世界的なサウンドアートのパイオニアである鈴木昭男さんを招聘して、彼の代表的プロジェクトの「点音(ルビ:おとだて)」スポットを、現地のランドスケープの音響特性(サウンドスケープ)に合わせて複数設置していただきました(別棟の美術館内では、この万象園の縮尺を2つの幾何学的なバリエーションに変換した素晴らしい新作インスタレーションも発表)。さらにそれらと融合/並走させる先端的テクノロジーの導入として、コンピューティングを駆使したサウンドアートの第1人者であるevalaさんに、野外3箇所(邀月橋、晴嵐島、観潮楼)に新作サウンドインスタレーションを設置してもらいました。庭園の入口に位置する大型の邀月橋には左右の袂から相互に呼応する2.2chのサウンドインスタレーション、池の中央の最も高所で、讃岐富士や瀬戸内海が眺望できる晴嵐島には、琵琶湖の晴嵐島でフィールド採録してきたサウンドファイルを加工した8chのサウンドインスタレーション、庭園の奥部に位置する、日本最古の高床式煎茶茶室内部には、まさに脳内空間ともいえるような、8.1chのサウンドVR作品を、この企画のために新たにクリエーションしてもらっています。晴嵐島はスパイラル状に上昇する8ch、茶室内はキューブ構造の8chで、同じ8chでも全く異なる空間のアレンジになります。またこの茶室作品には、鈴木さんの「点音」の3箇所からのリアルタイムのマイキング音(水滴音や池の水流音など)もデータ使用されています。これら万象園全体に渡って、壮大に空間構成される3つのインスタレーションは、使用されるサウンドの質も運動も、音響の到達深度や距離間隔で大きく異なり、観客が庭園のどこの位置にいるか、移動するかで、相互干渉/融合しながら聞こえ方が変容し、当然ですが聴覚と組み合わされる庭園の視覚的風景も変わってきます。つねに音響関係が一様にはならない聴覚特性が、伝統的な日本庭園の地勢的特質や複雑性とリンクする形で、魅力的な多様性が引き出され体験できるプロジェクトとなりました。

聴覚から視覚を刺激する脳内の特性を、クロスモーダル現象と呼びますが、細かいことを言うなら、従来感覚与件と単体で呼ばれてきた知覚特性も、器官なき身体性としての神経的なもの、反対に身体なき器官としてフィルタリングされたもの、また意識で認識される主観的なもの、といった多様性が認められ、視覚/聴覚/触覚のバランスシートによって、さらにこれらの感覚は変化します。メディアアートが出現したことでようやくプロブレマティックなフォーカスが当たり始めたサウンドアートやサウンドインスタレーションは、今後発展が見込まれるサウンドVRやARにおいてのテクノロジーも含めて、新しい表現方法として注目していきたいジャンルです。メディアアートは、美や感性に関わる造形思考のみが中心になるのではなく、テクノロジーからの洞察やアプローチを中心に展開する新たな表現でもあり、ドラマトゥルギーという言葉が演劇表現にありますが、私はそれをテクノトゥルギーと呼びたいと考えています。

先日の1月に、御茶ノ水のリットーベースというサウンドアート専門のギャラリースペースで、evalaさんによる、万象園の茶室の音源を元に、新たに4.2chにアレンジされた体験型のサウンドインスタレーションが公開されましたが、これはまた、万象園の茶室内での経験とはかなり異なるアフェクトやVR的立体音響を生み出す作品になっていました。このように、データ上は同じソースを使用していても、インストールする空間やシステムのリアライゼーションによって、全く違った様相を生み出すことが可能になりますが、これがメディアアートの特徴や面白さでもあると言っていいでしょう。

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