芸術学部 基礎教育

3月の話:アトリエ周辺

※この記事は、田中康二郎 基礎教育教授が執筆しました。

<2015年度リレー連載第12回>

3月担当の田中です。今回は自己紹介を兼ねて、私のアトリエの周辺のことを書いてみたいと思います。

相模湾を臨む根府川にアトリエを構え、15年ほどが経ちました。小田原市の郊外で、詩人茨木のり子が詩集「根府川の海」で「東海道の小駅 赤いカンナの咲いている駅・・・」と呼んだ東海道線根府川駅は、昔ながらの木造のかわいらしい駅舎を構えた無人駅です。

根府川駅舎

ここは、石碑や歌碑に使用される根府川石の産地でもあります。海からすぐ山の斜面が立ち上がり、産出する石材を船で運ぶのに好都合だったのでしょう。

さてそんな根府川では目の前に広がる海に面した斜面に段々畑のように石垣を築いて確保された平地に住宅を建て、その背後にはミカン畑と雑木林が広がっています。我が家の上空には、トビのつがいとおぼしき2羽がいつも旋回し、近所の白糸川ではショウビンやシラサギを見かけます。まだこの地には自然が残されており、季節ごとに変わる木々の花や雑草、山の斜面の緑の変化により四季の移り変わりを肌で感じることができます。

3月に入りやわらかい日差しが戻ってきましたが、毎年夏の暑い盛りまで啼いているやや季節感のずれたウグイスが先日鳴き始めました。ソメイヨシノより開花時期が早いこの地でよく見かけるおかめ桜の枝に、ウグイスとおぼしき鳥がとまっています。

おかめ桜とウグイスらしき鳥

どこにも出かけずにバード・ウォッチングしているようなものです。

私はもう40年以上黒御影石という非常に硬い素材が持つ材質感、存在感に惹かれて抽象作品を制作しています。

「Ohne Titel’16-Nr.2」 (H 48cm)

隣の駅は真鶴でここもまた石材の町として古くから名前が知られており、かつての江戸城の石垣の多くはここから産出された小松石と呼ばれる安山岩を使用しています。私が好んで使う御影石より柔らかい材料ですが、やや緑がかった灰色で彫刻の素材として十分な密度を持っており、彫刻家として世界的に知られたイサム・ノグチはこの小松石で多くの優れた作品を残しています。

そんな自然のたくさん残る地で制作していますが、私は、いつも周りの環境からさまざまなことを感じながら生活しています。目にするもの耳にすることそして手にとって触るもの、これらはすべて思考を巡らす源です。それは抽象的な事柄について考えるときも同様です。何かを考え、表現しようとするときにはまず、視覚や聴覚といった知覚的イメージによりその時々の思考を明確にしてゆきます。その豊かなイメージを生み出しているものが身の回りの自然環境です。自然は人が自ら作り出すことはできませんが、季節ごとの木々の色合いや空の雲の変化、生き物の成長、それらの自然環境を大切に守ってゆくことはできるかもしれません。自然は豊かな感性を育むのみでなく、思考の発達、創造力・表現力の育成といった教育の目標にとって不可欠な知覚的な能力を高めることができるものかもしれません。

『はじめて学ぶ社会学』第2版が完成しました

リレー連載4月号:「続けるコツ」

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