芸術学部 基礎教育

2014年度リレー連載 第4回:「ハープを弾いてみませんか?」

*この記事は、鈴木万里 基礎教育教授が執筆しました。

今回オススメするのは、私の担当科目や研究領域とは直接関係のないことです。皆さん、ハープを弾いてみませんか? というより、そもそもハープという楽器をご存じでしょうか。弦がたくさん張ってある三角形が立っている形かな?と、思い浮かぶかもしれませんね。でも、実際に間近に見たことがある、ましてや触ったことがある方は少ないと思います。なにしろ、ふつう楽器店ではほとんど販売されていないからです。また、近隣の音楽教室でもハープ講座はまれです。つまり、どこで入手できるか、誰に習えばよいのかよくわからない、超マイナーな楽器といえます。

(トリニティ・カレッジ売店で販売の絵葉書)

ところが、実際に弾いてみると、これが意外にも初心者フレンドリーなのです。全音階(ピアノの白鍵と同じ)が並んでいるので、たとえ楽譜が読めなくても、短時間でお気に入りのメロディを弾けるようになります。しかも、ドは赤い弦、ファは青い弦と色がついていて、わかりやすいです。バイオリンやフルートのようにまともな音が出るまでに時間がかかることはありませんし、ギターのようにフレットを押さえる手間も不要です。ちなみに、この4年間、7月末に開催される「わくわくKOUGEIランド」で近隣の子どもたち対象にワークショップを実施していますが、約40分でだいたい合奏ができるようになります。しかも、ハープの音色は弾いていて実に気持ちのよいものです(倍音が多く出るからだそうです)。録音で聞くと残念ながらその魅力の半分も伝わりません。アメリカの医療現場やホスピスでは、患者の痛みや苦痛を和らげる目的で、「ハープ療法」が行われているそうです。心を落ち着かせる美しい音色が癒し効果をもたらすのでしょう。

実は「ハープ療法」は大昔から行われていたらしく、旧約聖書にも記述が見られます。初代イスラエル王のサウルが悪霊に悩まされた時、羊飼いダビデが竪琴を弾いて悪霊を追い払ったとされます(サムエル記・上、第16章)。つまり、王様の不眠症を妙なる楽の音で治したと考えられます。紀元前10世紀頃の話です。

ハープは古い歴史をもつ楽器で、狩猟に使われた弓を起源としています。紀元前3000年頃にはメソポタミアでハープの原形がありました。古代エジプトでもラムセス3世(紀元前1200年頃)のピラミッド内部の壁画にハープが描かれています。

神話にもハープはたびたび登場します。ギリシア神話に登場する太陽神アポロンは、すぐれた竪琴奏者であったとされます。彼の竪琴(リラ―ハープとは形が少し異なります)は音楽と詩の神オルペウスにもたらされました。彼が竪琴を弾くと、神々や人間のみならず、動物、植物、岩石までが感動したそうです。どんな音楽だったのか聴いてみたいものです。オルペウスの死後、その竪琴は天に上げられ、こと座になったという伝説があります。また、ケルト神話の豊穣神ダグダは、季節を定める黄金のハープをもっていたといわれます。古代社会ではきわめて重要な機能を果たしていた楽器と考えられます。

スコットランド、アイルランド、ウェールズ、ブルターニュなどのケルト文化圏では、古代から中世にかけて詩人とハープ奏者が高い地位を占めていました。彼らはいわば王の事績の広報担当でした。現在でもこれらの地域では、民俗楽器としてハープがよく演奏されます。アイルランド共和国の紋章はハープです。ダブリンのトリニティ・カレッジには最古のアイリッシュ・ハープ「ブライアン・ボルー」(15世紀頃)が展示されています。ギネス・ビールにもハープが象られています。

私がハープに興味をもつようになったのは10年ほど前のことです。アーサー王伝説に関連する地を訪ねてウェールズにたびたび行きました。ウェールズ人の友人たちの家には必ずピアノの隣にハープがあり、家族全員がハープを弾くと聞いて驚きました。少し弾いてみると、たちまち夢中になりました。その後、都内で習い始め、ワークショップやレクチャーコンサートに通い、ハープやリラに関する文献や資料を収集するようになりました。

中世ヨーロッパでは、ハープは吟遊詩人の活動とともに広まりました。しかし、13世紀以降、騎士の没落とともに騎士文化を背景とした吟遊詩人も消え去ります。また、16世紀頃から宮廷音楽は多声化し、♯や♭が出せないハープは次第に廃れていきました。17世紀にはリュートが人気の楽器となりました。17世紀絵画にはよくリュートが描かれていますよね。その後、ハープでも半音が出せるように様々な工夫がなされました。

ハープで半音を出すための方法はふたつあります。ひとつは、ペダルを足で踏んで半音操作をするものです。オーケストラで用いられる大型のハープ(47弦)はこの方式で、ペダル・ハープまたはグランド・ハープと呼ばれます。もうひとつは、弦の上部についているレバーを左手で操作します。これは、アイリッシュ・ハープ、ケルト・ハープ、フォーク・ハープなど様々な名前で呼ばれている小型および中型(22~36弦)ハープです。小型のものは高さ60㎝、重さが5㎏ほどで、持ち運び可能です。

厚木の研究室には小型ハープが3台あります。これまでも、ハープに興味がある、または一度弾いてみたいという学生が立ち寄って弾きました。中には毎週熱心に通ってきた学生や、アルバイトして同じ楽器を購入した学生もいました。1度の体験だけでも結構ですし、2~3回続けても構いません。未知の楽器に触れてみるのは楽しいものです。作曲する学生にもお勧めです。基本的な弾き方はお教えします。だいたい30分で「きらきら星」が両手で弾けるようになりますよ。興味のある方は、11月、12月、1月の金曜日4時限(15時)に、本館5階の鈴木研究室においで下さい。なお、楽器の経験は不要です。楽譜が読めなくても大丈夫。きっと新しい世界が広がります。

以上、ハープのオススメでした。

あつぎ協働大学 「希望のメディア芸術論 ~復興支援ソング「花は咲く」のミュージックビデオ表現」

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