芸術学部 基礎教育

あつぎ協働大学 「希望のメディア芸術論 ~復興支援ソング「花は咲く」のミュージックビデオ表現」

*この記事は、6月28日のあつぎ協働大学について小川真人教授が執筆しました。

「希望のメディア芸術論 ~復興支援ソング「花は咲く」のミュージックビデオ表現」  小川真人

今回は、復興支援ソングとしておなじみの「花は咲く」のミュージックビデオを、東日本大震災以後のメディア芸術における「希望」の表現との関連から検討します。「花は咲く」のミュージックビデオとして実写版、アニメ版、鈴木莉央主演のアニメーション版の三つをここではとりあげます。


作編曲を担当した菅野よう子さんは、古くは『カードキャプターさくら』、最近では『マクロスF』など、アニメの主題歌などで知られ、この曲も親しみやすいメロディーとなっています。作詞を担当されたのは、映画監督の岩井俊二さんです。お二人とも宮城県仙台市出身というように、実写版ミュージックビデオの出演者にも、宮城・岩手・福島の東北被災三県にゆかりの芸能人やスポーツ選手がむかえられています。ここでは出演者が、手に一輪の花をもち、真正面から向き合うように、「花は咲く」の歌詞の一節一節をそれぞれのスタイルで歌い継いでいきます。「真っ白な 雪道に 春風香る/わたしは なつかしい あの街を 思い出す/叶えたい 夢もあった 変わりたい 自分もいた/今はただ なつかしい あの人を思い出す」という冒頭の歌詞をきいて、「わたし」とは誰だろうと思う人もいるでしょう。それは後半でリフレインされる「花は 花は 咲く/わたしは何を残しただろう」に答えがあります。その、まるで自分の全人生をふりかえるような言葉を口にする「わたし」、それは、この災害において苦しみや無念のなか亡くなられていった人々にほかなりません。作詞者の岩井俊二さんは、石巻の先輩から、「僕らが聞ける話というのは生き残った人間たちの話で、死んで行った人間たちの体験は聞くことができない」という話をきいたことをきっかけに、震災で亡くなられた方々が生き残った人々に向けて希望の言葉を語りかける構図をもった歌詞を書きました。希望は、犠牲者というよりは、むしろ、未曾有の大災害を生き残り、今なお苦しい日々をおくり、希望を失っている(または失いかけている)人たちのためにこそ意味をもつのであり、その希望の言葉の考え得る限り最良の語り手とは、ほかでもなく、震災で命を落とされた方々以外にないでしょう。ここでミュージックビデオの各出演者が真正面から向き合うように「花は咲く」と語りかける姿は、希望を失った人々に向けて希望のメッセージを発信する姿にほかなりません。そして、約35名(組)の出演者の終わりに、鈴木京香は何も歌わず、目を閉じて黙祷を捧げるポーズをとって曲を締めくくりますが、ここだけは、逆に希望の言葉を受けとめ、そのメッセージをかみしめる、生き残った人たちの姿として理解できます。「花は咲く」という短くも明解な希望の言葉、メッセージの発信と受信というこの上なくシンプルな構造というように、このミュージックビデオ表現のもつ簡明さは、この曲の感動を深めることに独特の貢献をはたしているといえます。

次に、アニメ版『親と子の「花は咲く」』(歌:鈴木梨央、合唱:福島県双葉郡大熊町立大野小学校合唱部、キャラクター原案:こうの史代、監督:片淵須直、アニメーション制作:MAPPA、制作:NHKエンタープライズ)では、それぞれの日常生活をおくる人々のもとに、花びらのキャラクター「サキちゃん」が小さな幸せをもたらす様子が描かれます。ここで「サキちゃん」によって体現される希望は、よりよい明日へ向かって汗をかく人々のかたわらにそっと寄り添うように表現されています。

三つ目の、アニメーションバージョン『花は咲く』(Music Video)は、歌を担当する鈴木莉央が主演となるものです。女の子は、花びらを失って茎だけになった花をもって登場しますが、そこにいろいろな職業の人々(や人外のキャラなど)が次々とあらわれ、花びらを一枚一枚、彼女に手渡していきます。やがて花はカラフルな花びらでみたされ大輪の花をなし、それを女の子は大事そうにもって、にっこり微笑んでエンディングとなります。鈴木莉央という得難い素材も相俟って、ここではコンテンツ全体が希望の光につつまれています。

以上のように、復興支援ソング「花は咲く」のミュージックビデオでは、「花は咲く」という言葉に込められた希望のメッセージが、希望を失った人、無念のうちに亡くなられた人、希望を与える人、希望を受けとめる人、そして希望を受け継ぐ人というように、異なる立場やそれぞれの境遇にそくしつつ多様なメディアを通してさまざまに表現されていることがわかります。私たちはここにメディア芸術における希望の今日的な表現のあり方の一つをみることができます。

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