リー群論は、ノルウェーの数学者ソーフス・リーが創始したことはよく知られている。では、リーはどのような経緯で研究を始めたのだろうか。
リーの関心は幾何学にあった。幾何学では変換群というものが重要な役割を果たす。リーは群論を発展させ、リー群という新しい数学的対象の研究を始めるのであるが、リーにとって群とは、変換群のことであった。そして、リーは次第に線形微分方程式の解の在り方を「ある種の変換群」と結びつけることによって理解しようと考えるようになったのである。
ちょうど、n次代数方程式の解の在り方が、ガロア理論によって、n次置換群という有限群の部分群によって理解可能であるという事実と同じようなことが、微分方程式についてもいるのではないだろうか。それがリーの数学的発想である。簡単に言えば、微分方程式のガロア理論を作ろうと考えたのである。その場合に登場する群は有限群ではなく、もっと「広い」意味の群であるが、それは何だろうか。それを彼は「ある種の変換群」と仮に名づけ、その具体的なイメージを少しずつ膨(ふく)らませていった。