工学部 基礎教育研究センター

翻訳の楽しみ

小説家の村上春樹さんと、東大の先生をしている柴田元幸さんの『翻訳夜話』という本がある(文春新書)。これはね、すご~く面白い本ですよ。どこが面白いかって? うん、そうだな。村上君も柴田君も翻訳が大好きで、そのふたりが夜な夜な、仲良く話し合っているっていう雰囲気が、すごくい良いっていうか、和(なご)むんですよね。これは、なかなか文化的には高級なことが書いてある本だと思うのだが、お堅い本のイメージとはかけ離れた、う~ん、何というか、「そうだよねー」「うん、そうそう!」っていう boys’ talk の雰囲気がよく出ていて、読むというよりは音楽でも聞きながらふたりの声を「聞いている」という気分にさせてくれる本なのである。

この本を読むという体験は、いわゆる「活字を追う」ようなふつうの読書体験とはまったく異なる。そう、知らないうちに、どこからともなく、男たちの声が聞えて来ちまったぜ~、というような感じの体験なのだ。文字を読んでいるという自覚も、ページをめくったという記憶も残らない。ただ、耳元に仲良し少年たちのまったりとしたお話ともつかず、対話とも言えない声の記憶だけが残る、そんな読書体験なのだ。そう書くと、CD本ですかと言われそうである。そうではない。ふつうの新書なのだが、「読んだ」というよりは「聞こえてきた」という印象の本なのである。

翻訳は面白い。なぜ、面白いのか。その作業には、ある程度の困難、それも、予期せぬ困難が待ち受けているからである。

翻訳はふつう、外国のヒトが書いた本を母語(つまり、日本語ですね)に移行する。いわゆる「横のものを縦にする」行為である。なあんだ、横のものを縦にするだけか。簡単じゃないか~と思われるかもしれない。ほら、そこの、いま、これを読んでいる君、一瞬そう思ったでしょ? 「簡単じゃないか~」って思ったでしょ? 思った? よ、ね? 違うんだなー、これが。

多くの場合、私たち日本人は英語で書かれたものを日本語に翻訳する(さっきは、外国のヒトが書いたものを、母語に翻訳すると書いた)。そして、英語と日本語とでは、似ているところもあるが、地球上にこれほど違う言語があるだろうかと思うくらい違っているところもいっぱいいっぱいあるのである。

 

 

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