芸術学部 基礎教育

2013年度リレー連載 第5回:情報倫理入門

第5回担当の大島武です。今回は私の担当科目の一つ「情報倫理」について書かせて頂きます。

皆さんはドッグ・イヤー(Dog Year=犬の一年)という言葉をご存知でしょうか。似た言葉にドッグ・イア(Dog Ear=犬の耳)がありますが、こちらは、途中まで読んだ本のページの端を少し折って「しおり」代わりにすることで、学校の英語の時間で習ったかもしれません。さて、ドッグ・イヤーの方は…。犬は1年生きると人間の7年分、歳を取ると言われています。3歳の犬は人間で言えば20歳前後の立派な大人です。物事の変化があまりに速くて、まるで1年が7年分のようだ。そんな、社会の情報化のスピード感を表した言葉なのです。

社会の変化が急激でも、それで便利になるならいいじゃないか、と思うかもしれません。たしかに私たちは、インターネットを基盤とした情報ネットワーク社会の快適さ、便利さ、そして表現の自由を楽しんでいます。でも、その自由をどこまでも広げていくとどうなるか。やがて他人の自由とぶつかります。ネット上で、自分の思ったことを多くの人に伝えたいと考えるのは自由、その発言に私は深く傷ついたとクレームするのも自由です。こうした自由と自由のバッティングをどう考えるか。ここで情報倫理という考え方が出てくるのです。

先日、テレビでお笑い芸人の人が自分の相方について「いやー、コイツ、○○のファンとか告白したらブログ炎上しまして・・・」と話していました。簡単に言わないでほしいなあ、と思ってしまいました。ブログの炎上は、ようするに「気に入らないヤツに言葉の暴力を集中的に浴びせて、発言できないようにしてやる」ということで、悪質ないじめにも匹敵する行為です。決して軽いトークのネタにしていいようなことではない、と私は考えるのですが、皆さんは如何でしょうか。

お笑いの話が続きますが、スマイリーキクチさんという芸人がいます。この方は、過去に起こった殺人事件の共犯者として、実に10年もの間、ネット上で誹謗中傷され続けました。もちろん事実無根です。でも、いくら釈明しても匿名の人たちの攻撃は執拗で、「やってない証拠を出せ!」「よく舞台に立てるな!」などと罵声を浴びせ続けました。この事件は最終的には警察が動いたのですが、根も葉もないことで、見ず知らずの大勢の人たちから非難され続けた気持ちはいかばかりだったことでしょう。スマイリーさんは、この経験を『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房)という本にまとめました。

悪い奴は法律にのっとってどんどん取り締まればいい、と考える人もいるでしょう。法による抑止はもちろん重要なのですが、一方で、法は人間の自由を縛るものでもあります。何でもかんでもルール化するのではなく、たとえ時間がかかっても人々の良識を積み上げて、倫理の力でネットワーク社会の諸問題に対処していく、そんな考え方も必要だと思います。最後に一つ宣伝を。先ほどご紹介したスマイリーキクチさんの全面協力を得て、全国の大学で使って頂けるような情報倫理の映像コンテンツを現在、企画中です。完成したら報道発表したいと思っています。乞うご期待!

【参考文献】
 * 大島武/畠田幸恵/藤戸京子/山口憲二/寺島雅隆『ケースで考える情報社会―これからの情報倫理とリテラシー』(第2版)、三和書籍、2010年

『ケースで考える情報社会』(三和書籍)

 * スマイリーキクチ『突然、僕は殺人犯にされた〜ネット中傷被害を受けた10年間』、竹書房、2011年

『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房)

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