今年度のリレー連載は、基礎教育の教員が目を引いたり、皆さんに紹介したい光景などをもとに文章を綴っていきます。今月は福田豊先生にご寄稿いただきました。
「働きも者のきれいな手だと言うてくれましたわい」ご存じ『風の谷のナウシカ』の城オジ、ゴルの名セリフ。
「えー!手で受け止める!?」こちらは『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカのセリフ。
どちらも手を象徴的に扱っています。そして、アニメを作っている人のものづくり対する姿勢が垣間見えるセリフのように感じられます。
私は、人の手を見るのが好きです。電車に乗っている老若男女の手を見て、その人の生活や人生を想像します。その中でもごつごつした年季の入った分厚い手が好きです。そして、心の中で先のゴルのセルフを唱えます。
いつのころからか、手仕事で何かを作り出すことに強い憧れとこだわりを持っていました。彫刻家を志し、美術大学に入学し、少しずつ彫刻の技術が身についてきたころ、自分の手をモチーフに作品を作ってみたくなり、先輩にもらった大理石で制作したのが今回の写真の作品です。
この文章を書くにあたり、作品を見返すと、彫刻家として何かを成し遂げたい野心と、もっとうまくなりたいという素直な願望が感じられます。タイトルは「歴史の手」です。自分の今の手を石に定着させたい思いと、手が人類の歴史を作ってきたとのメッセージを込めて制作しました。
美術で何かを表現したい若者は、3Dプリンター他、各種の新技法や新素材の登場、社会の目まぐるしい変化などに戸惑うことも多いでしょう。正解のない世界に焦りや投げ出したい気持ちもあるかと思います。そんな時こそ、体を使い、汗をかき、手を動かしてください。かいた汗と手が必ずあなたを助けてくれるはずです。