9月担当の大島 武です。今回はフリーランスという働き方について書いてみたいと思います。
■フリーランスは芸術学部卒業生の理想形?
担当科目「経営学」は本年度から学生が面接授業と遠隔授業のどちらかを選択できるようになりました。履修者は概ね半々ぐらいかな、と予測していたのですが、前後期合わせての履修者数は、何と遠隔授業314名に対して面接授業わずか19名! みんな、そんなにボクの顔見たくないのか・・・。厳しい現実を突きつけられ実はちょっとヘコんだ次第です。
それはさておき、経営学(遠隔授業)では、初回にこんなレポート課題を出しています。
「もしも自分の好きな会社で好きな期間働くことができるとしたら、どの会社選びますか?具体的な会社名とその理由、自分の人生設計も交えて説明してください。(600~800字)」
学生のレポートを読んで興味深いのは、勤めてみたい会社名よりむしろ人生設計の部分です。「好きな期間働ける」という設定なのに「その会社でずっと働き続ける」と回答する学生は少なく、毎回7割前後の学生はその会社を修行の場と捉え、将来はフリーランスでやっていきたいと答えます。
フリーランス、個人事業主。培った感性やスキルを活かして、個人で仕事を受けていく。実にかっこいいですよね! 芸術学部卒業生の一つの理想と言えるかもしれません。でも、皆が皆フリーでやっていけるのかな。お勤めしかしたことのない私には厳しい世界のようにも思えるのですが・・・。
■先輩が奮闘しています!
今年4月に発刊された『フリーランスの生活をぶっちゃけてみました。』(大塚さやか著 内外出版社)を興味深く読みました。著者の大塚さんは、本学デザイン学科を卒業後、デザイン事務所、編集プロダクション、出版社等勤務を経て29歳で独立。デザイナー、イラストレーターとして活躍されています。気になる仕事のこと、料理やオシャレなどの私生活面からストレス解消法まで、「ぶっちゃけてみました。」のタイトルどおり赤裸々に語られていて、とても迫ってくるものがありました。
「お金編」ではこんな記述も。「ギャラが支払われるのは仕事が終わった後、請求書を送って大体2ヶ月か3ヶ月後だ。(中略)さすがに最近は慣れたし、余裕も出てきたけど、駆け出しのころの資金繰りの鬼門といえば、この支払いサイトのギャップだ」。うーん、なかなかリアルでシビアな話ですね。
自虐ネタがかなり多いのですが、全体のトーンとしては明るく、ご本人が根っこの部分で強い自己効力感を持っていることが伝わってきました。ときどき挿入される4コマ漫画もとても面白い。様々な難題に立ち向かったり、ごまかしたり、やり過ごしたりしながら奮闘する先輩の姿を通してフリーランスの楽しさ、厳しさを学べる良書だと思います。ぜひ、ご一読を。
■私はずっと工芸大で!
コロナ前は講演やセミナー講師の依頼が年に70本ほどありましたが、私はフリーランスでやっていこうと思ったことは一度もありません。それには学生時代に父からかけられた言葉が大きく影響しています。父は著名な映画監督で、私が20歳代の頃は、一種タレント的な立ち位置で様々なテレビ番組に連日出演していました。ある日私は父に言いました。
「(映画監督らしくない)ふざけたテレビ番組には出なくてもいいんじゃないの?」
それに対する父の答えは衝撃的なものでした。
「おまえね、仕事断って、次にこなくなったらどうするの?」
ああ!大島渚でさえ、次に仕事がこなくなることを恐れているのか。フリーって恐ろしい。自分はアブナイ橋は渡らず、絶対勤め人になろう。その時の強い気持ちは今も忘れていません。
と、いうわけで、定年まであと6年と少し、何とか工芸大に勤め続けたいと切に願っている次第です。皆さん、これからもよろしくお願いします。