芸術学部 基礎教育

リレー連載「多読って何?」

こんにちは。基礎教育課程准教授の橘野です。このリレー連載は主に大学生・高校生が読んでくださっていると思いますが、学生・生徒の皆さんにとって「英語」とはどういうものでしょうか?

これまで英語の教員として教えてきた中で、英語に対するやる気を尋ねると、ほとんどの人は「上達したい」、「英語でコミュニケーションを取りたい」、「英語の映画を字幕なしに見たい」、などの前向きな希望を語ってくれます。しかし実際の学習となると、英語の授業は嫌い、英語は難しい、勉強しても上達しないという、ネガティブな思いを持つ人も多いようです。

何かと困難を伴う英語学習ですが、英語が大好きな人にも英語を見ると嫌な気持ちになる人にも、すべての皆さんにお勧めできる英語の学習法を今回は紹介したいと思います。それは「多読」と呼ばれる方法で、英語で言うと”Extensive Reading”(広く読むこと)です。英語の習得にはインプットの量と質が重要だという考えを元にしており、易しい英語の本を大量に読むことで英語力を高める学習法です。

英語力を伸ばすための方法は言語学・英語教育の分野では長年研究されており、様々な学習法がありますが、残念ながら、手軽に短時間で英語を自由自在に操れるようになる方法は存在しません。母語のことを考えればわかりますが、子どもが言葉を話せるようになるには何年かかかりますね。子どもが言葉を話し出すまでの間は、ずっと周りの人たちの話す言葉を聞いて頭の中に言葉の知識を貯めていきます。外国語・第2言語を学習する場合は、モティベーションも認知能力も違いますし母語の知識を応用できる場合もあり、条件が同じではありませんが、それでもそんなに簡単に「ペラペラ」にはなれません。

それにしても、日本では少なくとも中学高校の6年間は継続的に英語を勉強しています。長期間がんばっているのに、どうして思うように英語力がつかないのかと疑問を持つ人もいると思います。しかし計算してみると、6年間といっても実際に英語に触れている時間は思いのほか少ないことがわかるでしょう。日本で英語を身に着けようと思うと、圧倒的に不足するのがインプット(読む・聞く)の量です。文法や語彙の学習はもちろん大事で、早い上達にも必要な要素ですが、それと同時にたくさん読んだり聞いたりしないと使える英語にはなりません。

ここまで読んで、結局は英語の勉強をもっとしなくてはならないのか、と思う人もいるかもしれません。しかし多読のコンセプトは「易しいものを」「たくさん」で、拍子抜けするほど読みやすい本から始めますので、勉強という感じはあまりしないかもしれません。具体的な方法を以下に紹介しましょう。

・何を読んだらいいか?
興味を持てる分野で、辞書を引かずに読める程度の平易な英文を読むことが大切です。難しい本だとなかなか進まずに嫌になってしまうし、内容よりも英文の構造や単語の意味に気を取られてしまうかもしれません。無理せず読めるレベルの本を読みましょう。皆さんは子どもの頃、日本語を学習しようとは特に意識せずにに好きな本を読んだと思いますが、それと同じです。最初は英語圏の子供向けの本や絵本がおすすめです。特に出版数が多くて細かくレベル分けされているのは、英国のオックスフォード出版から出ている”Oxford Reading Tree”シリーズです。薄くてすぐ読み終わりますし、理解の助けになる絵がついていますので、スタートには最適です。英語を読み続けることに慣れるという意味で、中上級者もまずはこのレベルを読んでみましょう。子ども向けの本は内容が単純すぎるという感想もありますが、いちばん易しいレベルはどうしても子供向けの本ですので、日本と英語圏の文化の違いを発見したり、独特な挿絵をじっくり見たりという別の楽しみ方をするのもよいでしょう。

その上のレベルの本は、graded readers(段階別読み物)というタイプの本で、外国語や第二言語として英語を学習している人向けに書かれています。比較的平易なレベルでかつトピックは高校生以上向けですから、内容的に幅がぐっと広がります。Penguin Readers とOxford Bookworms Libraryが代表的で、他にも各出版社から出ています。私の授業の中で特に読みやすいとの感想が多いのはFoundations Reading Library(センゲージラーニング)ですが、数が少ないのが難点です。

このような特徴を理解すると子ども向けの本ではなくgraded readersから読みたくなるかもしれませんが、よく中身を確かめてから始めてください。スラスラ読めることが目安になりますので、ざっと目を通して、知らない単語が1割以上ある場合は、迷わずにレベルを下げて子ども向けの本を読んでください。難しい本を読むことを目標にせずに、数多く読むことを目標にしましょう。

ここに紹介した本は洋書のため高価ですし一般書店ではあまり見かけませんので、図書館をぜひ活用してください。代表的なgraded readers は一般の図書館にもそろえてあることが多いです。しかしOxford Reading Treeなどの子ども向けの英語の本はまだ置いている図書館は少ないので、図書館にリクエストするといいと思います。また、橘野の研究室には様々な本をそろえてあり、授業内で多読活動をしたり、授業で使用しない時期には貸し出しをしたりしています。最近はオンラインでも読める本が出てきていますので、オンライン読書に抵抗がない人は調べてみるといいでしょう。

・どうやって読んだらいいか?
読む本が決まったら、辞書を引かないでどんどん読み進めてください。あまり細かい部分にはとらわれずに、読み終わった時にストーリーが理解できていればOKにしましょう。辞書なしでは無理!読めません!という場合は、難しすぎる本を読んでいるか、知らない単語を読み飛ばす勇気が持てないかのどちらかです。レベルにあった平易な本を、多少わからなくてもリラックスして読んでみてください。そのうえで、読了後どうしても気になる単語がある場合は、その時点で辞書を引いてもかまいません。

・たくさんってどのくらい?
読む量は多ければ多いほどいいです。インプットを増やす学習法ですから、読書量が少ないとどうしても上達に時間がかかってしまいます。元電気通信大学の酒井邦秀先生は100万語の読書量に達すると大人向けの易しいペーペーバックが読めると言っていますが、それを達成するには毎分100語の速度で読むと167時間かかり、毎日30分読めば約1年で100万語に到達できます。

・続けるコツ
日本語の本も読んでないのに英語の本を毎日30分も読み続けられる気がしない、という意見もあるでしょう。私の経験では100万語までいかなくても効果は十分にありますし、少しずつ読むことでも英語力向上に役立ちます。続けるコツは、読みたい本を見つけることです!英語の勉強のためにがんばろうと思うより、この話の結末が知りたい、非常におもしろいから早く読み終えてしまいたいという本に出合うことが一番の近道です。私自身、そのような本を選ぶお手伝いをこれからもしたいと思っています。

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