芸術学部 基礎教育

リレー連載「地下コンコースでの展示から (2020,10~2021,2)」

*この記事は相澤久徳基礎教育教授が執筆しました。

現在、昨年の10月から2021年2月中旬までの予定で、銀座四丁目の数寄屋橋交差点近くの地下コンコースで、作品の展示をしています。展示場所は、東京メトロ文化財団が設営した展示ブース「メトロ銀座ギャラリー」になります。正面と左右に分かれている三つの展示スペースを使用し、4人の作家が月替わりで展示作品を替えながらの「METORO ART PASSAGE」という展示名の4ヶ月にわたる長期間の展示になっています。

ギャラリー展示スペース

銀座の中心地の地下コンコースという公共の場であり、一日中、人の流れが途切れることがない場所での展示です。毎月の展示替えも、通路を歩く人の中で行います。普段の作品の発表とは違う展示環境で、ギャラリーや美術館、展示ホールといった目的を持って閉じられた空間とは全く違う生活環境の中にあるオープンなスペースで、人々の日常の生活の中で常に人の目に触れるということになっています。

展示期間を区切られたディスプレイ的な感じに思われることになるかもしれませんが、地下コンコースの空間を楽しんでいただけるような展示スペースです。常設のモニュメントとは異なり、展示期間ごとにまた別の作家の展示とつながっていくこととなり、展示スペースの雰囲気も変化に富んだものになります。

前回の展示風景

このメトロ文化財団による銀座ギャラリーでは、2016年にも一度、作家3人で同じように3か月間作品の展示をしたことがあります。今回の展示は、大々的な銀座地下コンコースの全面的な改修に伴い、メトロ銀座ギャラリーの展示ブースも改修され、新たな展示スペースとして初めてのメトロ文化財団の活動となります。公共の場所ということもあり、地下コンコースを利用する人に不快感を与えないようにするという展示内容に対しての制約もあります。また、地下鉄等の案内板や企業広告の掲示など、展示スペースのガラス面にも様々な光の影響を受けます。そのような影響を受けている地下コンコースで展示されている美術作品の鑑賞ということに対して、日々生活の中で利用している人々の目にどのように映るのだろう。

美術教育の鑑賞ということで考えてみると、本年度春からの教育指導要領の大きな改訂に伴い美術教育の内容も大きく変化し、「主体的、対話的で、深い学び」ということから、美術の作品表現も、鑑賞教育についても、その教育内容が変化してきている。今までの作品鑑賞というと、作品の解説を聞き理解するといったものが教育の中での主流であり、教科書や美術教材のCDでの解説を聞く、あるいは美術館学芸員の解説を聞くというものであった。しかし今年度の改訂で、これからの美術作品の鑑賞というものは、解説を聞くというよりは、見る側が対象となる美術作品をどのように感じるかということに重点を置いたものになってきている。作品を通して感じるということは、人それぞれがそれまでに生活してきた環境や経験、またその日の感情の起伏によっても左右されてくる。これまでの教育環境で育ってきた人にとっては、「作品の解説をしっかり聞かないと落ち着かない。」というような気持ちを持っている人が多いかもしれません。また、実際の美術や図画工作の授業の中でも、児童生徒の作品制作に時間を取られ、鑑賞に授業時間を使うことはほとんど行われていなかったと言っていいかもしれません。しかしこれからは主体的に鑑賞するということから、自分が制作し、あるいは直接見た作品に対して感じたことや考え、思いなどを対話の中で楽しみ、また他者の作品に対しても鑑賞をする中で影響をしあい、感覚を高めあう。そういった日常生活の中で感じる自分の感覚を、あるいは社会生活に対して活かしていくことが求められてくることになります。

展示風景

さて、銀座での展示に話を戻すと、そこの展示スペースの横を通る人たちは、展示作品に対しての感想はどのようなものだろう。毎日の通勤で横を通る人、たまたま銀座通りから地下コンコースへ降りた人、買い物に来て偶然見た人、銀座で地下鉄を乗り換えて横を通ったなど、様々な人がいると思います。展覧会ではないので、展示に対しての広告はしていません。なかなか直接感想を聞くことが出来ませんが、知り合いが偶然見たという報告もたまにあります。日常生活の中で、また、毎日の通勤で作品を見るということをどのように感じているか聞きたいところです。展示を観るために足を止め、じっくりと作品を観る人はほとんどいませんが、興味を持ち展示ブースを横に見ながら通り過ぎる人は多くみうけられます。前回2016年の展示の際には、偶然通りかかった人が興味をもって足を止めてくれたのかもしれませんが、展示風景の写真とともに好意的な感想をブログに投稿していただいたということもありました。また、毎月の展示替えの最中には、作業風景の物珍しさなのかもしれませんが、携帯で写真を撮っていかれる方もいらっしゃいます。

1月中旬からは、今回の「METORO ART PASSEGE」最終回の展示が始まっています。昨年の10月から始まった4ヶ月間の展示も、いよいよ終了になります。一ヶ月毎に展示作品を替え、空間を演出していく中で、作品展示の面白さも味わってきました。毎回、展示替えをするたびに、地下コンコースにあるメトロ銀座ギャラリー全体の雰囲気も変わってきます。

現在、外出することがなかなか難しい状況になってしまいましたが、銀座方面に用事があり、あるいはJR、地下鉄の乗り換えで銀座の地下コンコースを利用し、メトロ銀座ギャラリーの横を通る機会がありましたら、三つの展示スペースそれぞれの作家の雰囲気が違う展示作品に足を止めてみて下さい。

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