芸術学部 基礎教育

リレー連載「ケンブリッジ大学滞在記」

*この記事は鈴木万里基礎教育教授が執筆しました。

2019年8月25日〜27日に英国のケンブリッジ大学に滞在する機会がありましたので、今回はそのご報告です。「英語基礎」の教科書にも登場した世界的に有名な大学ですが、日本やアメリカの大学、英国の他の大学とはかなり仕組みが異なります。学生生活もずいぶん違うようです。

1496年創設のジーザス学寮。芝生を囲むクロイスター(回廊)が素敵です

 

ケンブリッジ大学は1209年に創設されたヨーロッパでも最古の大学のひとつです。中世の大学はもともとキリスト教の修道士養成のための教育機関でした。ケンブリッジとオクスフォードは800年以上の歴史と長い伝統をもつ中世以来の大学で、コレッジ(学寮)制という独特のシステムをとっています。ケンブリッジには現在31のコレッジがありますが、20世紀に創設されたコレッジが9つ、19世紀創設が6つ含まれていますので、中世、ルネサンス以来の古いコレッジは約半分です。各コレッジは、教室、講堂、食堂、寮(学生用、教員用)、礼拝堂、庭などを備えて独立して運営され、教員も学生も寝食を共にします(修道院と同じ発想)。入口にはPorterと呼ばれる門番がいて、部外者は原則入れません(観光客は1000円ほど支払うと見学できる場合もあり)。各コレッジは土地や株式など資産を所有して独立経営をし、入学生の選別もコレッジごとに実施します。つまり「ケンブリッジ大学に入学する」のではなく、正確には「○○コレッジに入学する」わけです。学生もコレッジに所属します。「ケンブリッジ大学は概念であって実体は存在せず、あるのはコレッジと学部だけ」とディナーで隣に座った教員が説明してくれました。何だかわかりにくいですね。コレッジでの教育は、指導教員と1対1のSupervision と呼ばれる個人指導で、与えられた課題について論文を書いて指導を受けます。コレッジの外部には Department(学部)の施設があり、各コレッジの学生が専攻に応じて講義科目を受けに行きます。講義には出席してもしなくても構わないのですが、その専攻に必要な科目の試験には合格しなければなりません(かえって厳しいはず)。

コーパス・クリスティ学寮。中庭の芝生が見事です。学生は芝生に立ち入り禁止。

 

今回滞在したのは、1352年創設のコーパス・クリスティ・コレッジ、学部生280名、大学院生250名の小規模な学寮です。イングランドの大学は専門課程のみの3年制ですから、各学年100名弱で、様々な専攻の学生が在学しています。夏休み中、学生は寮を出なければならず、外国からの短期留学生を受け入れます。この時は明治大学と立命館大学の学生、他に中国からの留学生が滞在していました。私はゲストルームに泊まりましたが、幅5mの本棚が天井まであり、幅3mの大きな机のある広いベッドルームにバスルーム(シャワーのみ)がついていて快適でした(古い建物では部屋にバスルームがついていない場合も多いので)。ただしテレビや冷蔵庫はなし。食事はDining Hallで取ります。ケンブリッジで最も古い建築である聖ベネット教会の塔(9世紀)に隣接した雰囲気のある建物でした。

左が聖ベネット教会の9世紀の塔(第1種歴史的建造物)。右側の教員寮の3階(窓が開いている部屋)に宿泊しました

 

今回の目的は短期留学生の半日ツアーに参加させて頂いて、普段は非公開のウィリアム・モリス(19世紀のデザイナー、画家、詩人、社会活動家)のタイル画、ステンドグラス、壁画を見学することでした。あいにく8月26日は異常な猛暑で最高気温が33℃、3時間以上歩き回るのは消耗しましたが、たいへん興味深いツアーでした。案内役の教員Anabellaと大学院生Pollyの説明を聞きながら、ケンブリッジの町の様々な様式の建築や教会に加えて、ペンブルーク学寮、ジーザス学寮、クイーンズ学寮などを見学しました。残念ながら、ジーザス学寮礼拝堂では室内楽の録音が行われている最中で、モリスのステンドグラスを見ることはできませんでしたが、クイーンズ学寮オールドホールの暖炉上のタイル画は見学できました。12ヶ月の労働を描いた中世的なモチーフです。

12ヶ月の労働を描いたタイル画。これを見るのが今回最大の目的でした

 

夜はFormal Dinnerに参加しました。留学生は男子がスーツにネクタイ、女子はワンピース・ドレスを着用します。19時にコレッジのCourt(中庭)の芝生の上でReception が始まります。夏時間のためまだ明るいです。シャンパンまたはジュース(リンゴかエルダーフラワー)を受け取って、教員に挨拶し、しばらく歓談します。ちなみにケンブリッジやオクスフォードのコレッジ中庭の芝生は普段学生の立入りを禁止しています(教員は可)。しかし、フォーマル・ディナーのレセプションでは特別に許されますので、少し高揚感があります。19時半頃に合図のドラが打ち鳴らされDining Hallに移動します。映画「ハリー・ポッター」に出てくる食事風景を思い浮かべてください。朝食や昼食はカフェテリア方式ですが、フォーマル・ディナーではテーブルに蝋燭が灯され、一人ずつその日のメニューが置かれていて、黒いスーツを着たウェイターやウェイトレスが一品ずつ運んでくれます。

本来フォーマル・ディナーでは教員は最前列のHigh Tableと呼ばれる一段高いところにあるテーブルにまとまって座るのですが、今回は留学生同士が日本語で話すのを防ぐためか、教員も学生と同じテーブルに分かれて座っていました。ただし私の周りはすべてケンブリッジの教員でしたので、専門の異なる初対面の研究者と2時間英語でおしゃべりしながら食事をするのは、緊張感があっていい訓練でした(まだまだ修行が足りないな〜)。メニューは次のとおりです。前菜は鯖の酢漬けにムール貝の燻製に西洋辛子のソース・ディル風味。パン。メインは豚のロースト、リンゴ入りブラック・プディング、焦がしたリンゴのピューレにホウレンソウ、リンゴ酒のソース。デザートはEton Messという英国の伝統的なお菓子(メレンゲ、生クリーム、イチゴを混ぜたもの)とバジルのアイスクリーム(甘くないアイスクリームは初めて)。最後にコーヒーとミントのチョコレート。全体としてフランス料理と英国料理の中間のような印象で、意外と美味しかったです(英国の料理はまずいという定評なので全然期待していませんでしたが)。ワインもふんだんに出ましたが、アルコールが飲めないので少々肩身が狭い、というか悔しい。ベジタリアン向けには別メニューがあり事前に申し出ることになっていました。このような正式な食事をすることも教育の一環で、大学入学までにテーブルマナーを身につけている必要があります。ディナーは21時半過ぎに終了しました。ようやく暗くなりかけていました。

前菜。お皿の下にメニューがあります

 

メインの料理。大きな豚肉。デザートの写真を撮るのを忘れてしまいました。残念

 

シャンデリアと蝋燭の光だけで食堂はかなり暗いです

 

今回はケンブリッジ大学でコレッジの生活の一端を見ることができたという意味でもたいへん有意義でした。私が留学したリーズ大学は日本の大学と同じ通学スタイルでしたから、コレッジでの生活やフォーマル・ディナーを体験する機会はありませんでした。将来こんな環境で数年勉強や研究をしてみたいなあと思います。以上ご報告でした。

リレー連載「美術史ってもうかるの?」

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