*この記事は、田中康二郎基礎教育教授が執筆しました。
10月担当の田中です。今回は去る9月10日~6日に開催しました私の個展について書いてみたいと思います。
会場は港区銀座6丁目の「うしお画廊」で、1年半ほど前にできた比較的新しい画廊です。元々は戦後早い時期に銀座4丁目で開廊し、60周年を機に閉じることとなった「みゆき画廊」で長年勤めていた牛尾京美さんが、日本の美術界の重鎮達に薦められて再び開廊したギャラリーです。ただ絵画の展覧会がほとんどでしたので、石彫展を開くのは今回の私の展覧会が最初となるとのことでした。
DM 掲載の作品は、「Ohne Titel ’18-Nr.2」という題名で、Ohne Titel(独語で「無題」)というシリーズで制作している作品の一つです。素材は赤御影石で、大きな赤い結晶が特徴的な花崗岩と同系統の岩石です。h27 ✕ w49 ✕ d20.5cm の大きさとなりますが、重量はおよそ70kg前後で、彫り出す前の原石の状態では、150kgほどの重さとなり、制作作業はそれなりに重労働です。
今回の個展では、9点の作品を展示しました。ほぼこの2年で制作した作品ですが、長年、金属(銅や鉄の無垢の角棒)と石とで構成し、空間のバランスや美しさを目指して制作して参りましたが、ここ2年ほどは、石のみで空間を表現しております。
立体を作る、またはイメージするということは、どういうことかという原点に返ることが、主眼ですが、金属とで構成した作品も、基本的にはプラスの形とそれによって形作られるマイナスの空間が作品の要素であり、そこを意識することによって、新たな構成が生まれてくるのです。
個展の会場は、それほど大きい空間ではありませんが、単に作品を並べるのではなく、作品の大きさ、展示台の位置、高さ等を考慮することにより、全体を一つの作品として鑑賞してもらえると考えています。
次に10月7日(日)から24日(水)まで中野キャンパスで開催された「芸術学部フェスタ」で、展示した作品について紹介することにします。
3号館の展示会場に展示した作品で、非常に密度の高いスウェーデン産黒御影石で作ったものです。 制作期間としてはおよそ4ヶ月を要しますが、原石から形を彫り出し、研磨する作業の他に、鞴(ふいご)を使って銅の角棒を曲げる鍛造の作業を行います。金属は大きく分けると鉄と、非鉄金属といわれるものがあり、その性質は全く異なり、非鉄金属である、銀、銅、アルミなどは、鈍し(なまし)といわれる作業を行うことにより、冷たい状態でも延伸、変形することができます。その性質を応用することにより、日本の伝統工芸のひとつである鍛金工芸が存在します。茶道具や食器、花器がこれらの金属で生み出されています。私が金属の角棒を成形するときも、真っ赤に焼いた状態で曲げたり、鈍してから曲げたりとその制作段取りに応じた加工方法を使います。
今回の「芸術学部フェスタ」には、もう一点作品を展示しております。
この作品もシリーズの中のひとつですが、マイナスの形がその外側に含む大きな空間を意識して構成を考えた作品です。大変残念なことに、展示した作品のすぐそばに丸テーブルやイスが置かれ、作品の一部としての空間が阻害されており、制作した側の意図が鑑賞する方に伝わらない展示となっております。
立体を見るほんの少しの意識が、感性を大きく育てるきっかけとなります。周囲の様々なものを視覚情報として認識することが、思考の原点でもあるのです。