芸術学部 基礎教育

リレー連載12月号:私は「古墳ガール」!

*この記事は鈴木万里 基礎教育教授が執筆しました。

「ジェンダーとアート」、「外国文学」、「伝統と文学」(工学部)、それに英語科目を担当している鈴木万里です。専門分野は18~19世紀の英国文学およびジェンダー論ですが、それ以外にも強い関心をもっている分野があります。人類学と考古学です。特に考古学は、小学校5年の時、長期入院中に『ツタンカーメン発掘記』を読んで以来、ずっと大好きです。ただし、考古学者になろうと思ったことは一度もありません。なにしろ病気が完治するのに2年もかかりましたし、発掘作業はとても体力的に無理と諦めていたからです。

そんな私が3年ほど前から「古墳めぐり」を始めました。「古墳」というと、奈良の箸墓古墳(卑弥呼の墓ともいわれる)や大阪の大仙古墳(仁徳天皇陵)が思い浮かびます。関東には縁のないものと思いがちですが、北は岩手、山形から南は鹿児島までほぼ全国に及び、意外にも身近な場所にも結構あるものなのです。経費がかかるため発掘調査がなされていない古墳が大半で、残念ながら消失してしまった古墳も数多いです。道路拡張工事や宅地開発などで偶然見つかった場合に調査され、その後破壊される場合がほとんどです。それでも全国で16万基あるといわれますから、たいへんな数ですよね。

ここで「古墳」について概略をご紹介。3世紀半ば~7世紀に作られた、地域の豪族や首長、皇族の墓です。円墳がもっとも多く、ヤマト朝廷の影響を受けた前方後円墳が有名ですが、方墳(四角)、前方後方墳(四角をふたつ組合わせた形)、八角形など、さまざまな形があります。小さいものは直径10m以下、最大の大仙古墳は全長486mもあります。これだけの建造物を400年以上にわたって全国でせっせと作り続けたエネルギーには頭が下がりますねえ。このような施設が社会に不可欠であったという意味です。なぜでしょうか?古墳が位置しているのは、だいたい周囲より少し高くなっている見晴らしのよい場所です(だから登ると気持ちがよい)。周囲を見渡せる小高い丘に古墳を作り、支配者が死後も領地を見守る(監視する?)ことで、安定的な秩序と権威を維持したのでしょう。また、大規模な古墳建設には地域住民の共同作業が不可欠ですから、いわば公共事業のような機能をもっていたかもしれません。さらに、古墳をめぐる儀式を通じて(前方後円墳の前方部の上では儀式が執り行われた)、共同体意識の形成に貢献したことでしょう。つまり、「古墳」という目に見える権威の象徴が、ある程度以上の規模の社会には不可欠だったのです。やがて文字による記録が成立すると、書物によって支配者の権威を示すことができるので(『古事記』『日本書紀』のように)、古墳は不要となっていったと考えられます。

それでは、比較的近くでお勧めの古墳を3カ所ご紹介します。

1.登山古墳群(厚木市飯山)

厚木キャンパスの北東に隣接する古墳群。2号墳から5号墳まで4基の円墳が保存されています。5~6世紀の地域の有力者の墓と思われます。100mほど南にはかつて1号墳があり、埴輪が多数出土したことで有名です(神奈川で埴輪は珍しい)。特に、家、武人、力士の埴輪はみごとなもので、厚木郷土資料館で公開されています(県指定重要有形文化財)。一見の価値がありますよ。堂山古墳群への地図は工芸大学バス停の時刻表裏に表示されています。大学から徒歩5分ほど、住宅地の中にあります。

2.秋葉山古墳群(海老名市上今泉)

海老名市でもっとも標高の高い座間丘陵上に5基が並んでいて、古墳頂上からの見晴らしがよいです。弥生時代末期から古墳時代初期(3~4世紀)にかけて継続的に作られました。前方後円墳、前方後方墳、方墳など形もさまざまで、特に3号墳は東日本最古の前方後円墳として注目されています。国指定史跡。なお、出土品は国分寺跡の前にある郷土資料館で展示されています。

座間駅から徒歩20分、海老名からコミュニティバスもありますが、本数が少ないです。

www.city.ebina.kanagawa.jp/www/contents/1149573278655/index.html

3.長柄桜山古墳群(逗子市と葉山町の境)

1999年に携帯電話のアンテナ建設工事の際に、丘陵の上に2基の前方後円墳が発見されて話題になりました。全長90m規模の4世紀の前方後円墳は神奈川でも最大級で、国指定史跡となっています。特に2号墳は逗子湾近くに位置していて、頂上からは鎌倉から湘南にかけての海岸線、江ノ島、その背景には富士山が見渡せる絶景ポイントです。当時は古墳表面が葺石で覆われていたらしく、海を行きかう船からは丘の上の石造古墳が、まるで灯台のように輝いて見えていたことでしょう。海上交通を制していた当時の支配者の権勢がしのばれます。1号墳の頂上からは東に東京湾が見渡せるそうですが、木が生い茂っていてよく見えません。

JR逗子駅からバスで「葉桜」行、終点から徒歩10分で1号墳。西に500mほどで2号墳。2号墳側の坂の下からも逗子行のバスあり。2号墳側の坂はかなり急なので、歩きやすい靴が必要です。

www.city.zushi.kanagawa.jp/syokan/syakyou/newbunkazai/kofun/kofun.html

最初に魅せられた古墳は、アイルランドの首都ダブリン郊外にあるニューグレインジ古墳です。5300年前(ピラミッドの1000年前)の現存する世界最古の古墳で世界遺産ですが、この話を始めると長くなるので、またの機会にしましょう。

古墳めぐりは秋から冬にかけての時期が最適です。木々の葉が落ち草も枯れて、古墳の形がはっきり見えますし、蚊に悩まされることもありません。天気が良ければ空気が澄んでいて、古墳の上から遠くまではっきりと見渡せます。関西の古墳は天皇陵や陵墓参考地として立入りが禁止されていることが多いのですが、関東では古墳の上に登れたり、石室を見ることができたりします(上記の3カ所は石室を見ることができませんが)。古墳が身近に感じられます。たまには1500年前に生きていた人々に思いを馳せてみるのもいいものです。

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