※この記事は、大島武 基礎教育教授が執筆しました。
今回の担当は基礎教育、大島です。
「8月」というお題を頂きました。
さて、8月と言えば夏休み! そして、ビール!枝豆!プール!いか焼き!海!スイカ!夏祭り!花火!蝉の声!
楽しいイメージしかなくて、実際、個人的に一番好きな月です。
でも、8月は「過去に思いをいたす月」とも言えるかもしれません。おりしも戦後70年。昭和20年の8月も蝉はうるさいほど鳴いていたでしょうが、枝豆といか焼きで楽しく乾杯!はなかったでしょう。もちろん夏祭りどころではなかっただろうし・・・。
ここで、今月発刊されたばかりの一冊の絵本を紹介します。
迫力満点の絵は、『けんかのきもち』『海の夏』などの作品で名高い絵本作家の伊藤秀男さん。そして文は、私の父である映画監督の大島渚。父は二年以上前に亡くなっているので、このお話は絵本のための書き下ろしではありません。斬新な作風の映像作家である大島渚がなぜ、絵本になるような子ども向けの文章を書いたのか。少し説明させてください。
私が小学校3年生のとき、担任の先生が言いました。「お父さんかお母さんに子ども時代のことを作文に書いてもらってきてください」。今から思うと随分変な宿題です。私は多少気後れしながらも、父に作文のことを頼んでみました。
「よし、わかった」
父は軽く請けあい、何とその翌々日には作文を書いて渡してくれました。クラスで一番です。さっさと宿題を出せてとても嬉しかった。でも、それを読んだ小学3年の私は「大人の作文は随分長いな」という程度の感想しかなくて、それきり忘れてしまっていました。
ところが、時が流れ、大人になって、だんだんとその作文のことが気にかかってきたのです。厳しい時代を生きた父の少年期、戦争で父親を亡くした「さかいくん」という友だちとのことが淡々と書かれた作品でした。「昔はこんなに悲惨だった」とか、「戦争だけは絶対にいけない」とストレートに表現されているわけではありません。父は戦略家なので、こんなふうに伝えたらどうだろう、などと考えながら書いたのでしょう。
あの頃の私にもう少しの想像力があったなら。さかいくんのことについて父に尋ねてみていたら・・・。その父はもういません。私と弟はいつしか、この父の作文を多くの子どもたちに読んでもらいたいと願うようになり、それが実現したのが今回の出版です。
戦争と平和の問題については、皆さんいろいろな意見をお持ちのことでしょう。でも、戦争体験者がどんどん少なくなっていくこれから、謙虚な気持ちで過去のエピソードに向き合い、自分なりに考えることも時に必要なのではないでしょうか。大人にも子どもにも読んでほしい絵本です。