芸術学部 基礎教育

2014年度リレー連載 第5回「『美との対話』を楽しもう」

*この記事は、石川健次 基礎教育教授が執筆しました。

以前のブログ(2013年10月リレー連載)で、「美術鑑賞入門〜世に展覧会がなくならない限りは……」と題して、私の美術鑑賞の一端に触れさせていただきました。展覧会を見る際に心掛けていることなどを書かせていただいたのですが、今回はいわば美術鑑賞の達人とも呼ぶべき方のその鑑賞方法のご紹介です。「私のおススメ」が今年度のリレー連載のテーマですから、それに合わせて小テーマを設けるとすれば、さしずめ「私のおススメする達人の美術鑑賞」でしょうか。

もっとも、美術鑑賞は人それぞれ自由に楽しめばよく、他人にとやかく言われる筋合いのものでは本来ありません。あくまで私の場合、達人の場合と割り切っていただければ幸いです。達人という言い方も適当ではありませんね。私個人がこの方の鑑賞態度や経験に学び、作品に深く分け入り、作品をいっそう楽しんだ経験を幾度も味わっているため、私の心のなかではそのような存在となっているということです。

産経新聞 2014年9月28日付け朝刊 読書欄から

その達人が最近、自身の鑑賞体験をつぶさにつづった本を刊行されました。ここでは、この本を紹介することで達人の美術鑑賞の一端に触れると同時に、「私のおススメ」に代えてみたいと思います。本のタイトルは『美との対話 私の空想美術館』(生活の友社)です。図版に掲げた新聞記事は、新聞社からの依頼で私が寄稿した書評(産経新聞 2014年9月28日付け朝刊 読書欄)です。本の内容に関しては書評に述べている通りなので重複を避けたいと思います。最後のほうに書いているように、この本の著者の作品をめぐるさまざまな体験、思考を補助線に作品を見直して、気づかなかった魅力を知り、視野が広がった経験を私自身何度も味わっています。

ただ、改めて触れておきたいのは、本書をはじめ、よくある作品解説の本などを読んで、その作品をすっかり理解したと思うことがあるかもしれませんが、それは本末転倒です。本書の筆者も、もし読者がそのような気分に浸って、実際の作品を見る必要はもうないなどと思ったとすれば、きっと残念に思うでしょう。どんなに優れた作品解説も、一見にはかないません。どんなに稚拙な鑑賞体験でさえも、あらゆる美文、美辞麗句に勝ります。

もっとも、海外など遠方にある作品を見るのは、なかなか困難です。そのような場合も、例えば私は本書を眺めて著者の鑑賞体験を追体験し、想像をめぐらせながら、いつか見たいと希望をふくらませています。実際に作品を前にしたとき、本や画集などを通して以前から抱いていたイメージがすっかり壊れたり、意外だったりしたことは数えきれません。あるいは本書ではありませんが、同じ著者が書いた別の同様の本につづられていたある作品に関しては、いざその作品を見たら著者と全く異なる印象を抱いたこともあります。それらすべてが、私にはかけがえのない体験、思い出となっています。

書評の最後に書いたように、あくまでも補助線に、あるいはいつか見たいと心を躍らせていたい、というような気持で本書を手に取ってもらえればと思います。

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