芸術学部 基礎教育

2013年度リレー連載 第2回:アートとサイエンス入門

■芸術学部のための自然科学教育(アートとサイエンス)の体系化

基礎教育の牟田淳です。僕は東京大学で原子核理論の博士号を取り、素粒子奨学生、筑波大、本学女子短大部などを経て2004年に本学芸術学部に着任しました。芸術学部に来て最初にしたことは、芸術学部(メディア芸術)でどのような理系教育、自然科学教育がなされているかを徹底的に調査することでした。その結果、当時はまだ芸術学部のための自然科学教育についての体系化された書籍や論文がほとんどないことがわかりました。
それならば自分で体系化してしまおうと考え、一般の自然科学の他に2004年当時の本学芸術学部の学科の写真、映像、デザイン、メディアアート、アニメ学科関連の書籍を徹底的に調査し、その中で一般に重要と考えられる自然科学関連の内容をピックアップし体系化したのです。例えばデジタルやCG、光や音、色温度などの知識です。これらの知識は大学や大学院で物理学を学んだ人間であれば、アート関連の本に書かれている内容よりも基礎的な内容を十二分に学んでいたので、体系化しやすかったのです。この体系化を通じて、アートとサイエンスに関わる様々な教育、研究を以下のように行いました。

■アートのための数学

天の川の写真(来間島にて)

アートとサイエンスに関わる結果の1つが「アートのための数学」という授業です。これは、メディア芸術の時代の自然科学リテラシー教育を体系化したもので、大手出版社(オーム社)により同じタイトルで書籍化もされました。図の写真はこの本の知識をもとにCG加工されてつくられた写真です。この本は学外的にも広く評価され、2013年の時点で197大学の図書館に本が置かれています。本は現在までに4刷になっています。

■アートと物理

オーロラの写真(フェアバンクスにて)

アートとサイエンスに関わるもう一つの結果が「アートと物理」という授業です。自然科学リテラシー以外に、芸術学部の学生が関わる自然科学の一つはSF(サイエンス・フィクション)です。SFの世界では星、宇宙、図の写真のオーロラや相対論などが出てきます。物理学科にはSFチックなミクロ・マクロな世界を扱う原子核・素粒子・宇宙分野があります。僕は原子核の出身なので、これらのSFの内容を体系化しやすかったのです。そこで、「宇宙と物理をめぐる十二の授業」という本を書きました。この本は現在2刷まで出版されています。

■形の科学

アートとサイエンスに関わるもう一つの結果が「形の科学」という授業です。形に関する芸術学部生向けの本として、当時自然科学の立場から書かれた本はほとんどありませんでした。そこで、「自然科学の立場から見た形に関する本」を数冊執筆しました。この分野はマスコミ受けが良かったのか、これまで全国テレビ出演や全国紙新聞の取材、全国紙雑誌の取材など数えきれないくらいの取材を受けました。
また現在、国に申請し採択された科学研究費を使って、「形の持つ印象の系統的研究」という研究を行っています。これは例えば「日本人が美しい、かわいい、好きと思う形はどんな形?」といった研究です。これはもちろん人によって異なるので統計的に調査する必要性があるのですが、被験者を全国規模にして1000人規模の大規模調査を行い、信頼度を増した調査を行うものです。こういった研究を通じて、「日本人って黄金比が好きなの?他の比が好きなの?」などを明らかにしていきます。

■その他のアートとサイエンス入門―雪の結晶の撮影方法は?―

雪の結晶写真(北海道大雪山系にて)

最近は他にも物理学やアートとサイエンス関連の本や論文を書いたりして、大変多忙な生活をおくっています。アートとサイエンスを調べていくうちに、自然科学が昔よりもさらに魅力的に見えてきました。例えば最近は図の写真のように雪の結晶を撮影する方法も開発しました。雪の結晶は透明なので、ライティング(光の当て方、照明方法)で雪の結晶印象が大きく変わってしまいます。しかしながら照明学を本学に来てから徹底的に調べておいたおかげで、様々な雪の結晶の写真が撮れるようになりました。
これからも、物理学と、アートとサイエンス両方を両立しながら研究教育をしていく予定です。

■学生の皆さんへ―オリジナルな作品を作り、そしてきちんと発表しましょう―

以上、最近の研究教育を簡単に紹介しました。アートとサイエンスに関する色々な業績を作れた理由を振り返ってみると、「メディア芸術分野における自然科学」といったオリジナルなテーマに着目したことが良かったと感じています。このことは学生の皆さんが作品を作る上でもヒントになるのではと思います。つまり、「自分の経歴を生かすオリジナルなテーマ」を探すことは、学生の皆さんが優れた作品を作る際の重要なヒントのひとつとなるでしょう。
しかしオリジナルなテーマの作品を作っても、実はこれだけでは駄目です。実際、大学の先生は、大学で授業するだけではなかなかその教育研究の価値を認められません。大学の先生は授業に加えて、教育研究の結果を論文や書籍で発表したり学会発表ほか科研費に採択される等の業績を通じて社会的に教育研究の価値が定まっていくのです。
学生の皆さんの場合も、作品を作るだけではあまり対外的には認められません。作品は対外的に発表して初めて仕事をしたことになります。もちろん受賞する等の評価を目的に作品を作るのは本末転倒ですが、まずは賞などの評価を気にせずに全力でオリジナルな良い作品を作りましょう。そしてその後で自分が作った作品を発表したり様々なコンペに応募するなどして対外的にアピールすることも、作品を作ることと同じぐらいに真剣に取り組むと良いでしょう。

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2013年度リレー連載 第3回:言語学入門

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