アニメーション学科

「演出Ⅱ」課外授業

Shinagawa Photo3年生向けの演習科目「演出Ⅱ」では、先日「幕末太陽傳」(昭和32年、川島雄三監督)を上映、鑑賞しました。今回のテーマは「考証」です。文久2年の東海道品川宿に実在した「相模屋」(通称『土蔵相模』)を舞台にした「幕末太陽傳」は日本喜劇映画史に残る傑作ですが、この作品の中でどれ程緻密な考証が行われていたのかを知るため、実際に今の品川宿に行ってみようということで、5月20日の土曜日、品川宿巡り課外ハイキング・ツアーが行われました。

Shinagawa photoまずは品川駅に集合して、「文久2年には、皆さんが立っているこの場所は海でした」というところから出発。ゴジラが最初にぶち壊した建造物としても有名な八ツ山橋を渡って東海道品川宿に入ります。因みに文久2年の10年後には日本で最初の鉄道が開通します。その時線路を通すために八ツ山を削リ、そして運び出した土砂で遠浅の海を埋め立てて品川駅を建てました。だから八ツ山橋は、日本で最初の立体交差なのです。

Shinagawa photo京成線の踏切を渡って程なく、かつて土蔵相模があった場所に到着。そこは現在マンションで、1階はファミリーマート北品川店です。歴史の舞台のイメージと身近なコンビニエンスストアのミスマッチに、学生たちは皆一様にポカンとした表情。映画に登場する、高杉晋作らによる英国公使館焼き討ちも、更に彼らが土蔵相模に集っていたことも史実ですが、映画のシーンで二階から焼き討ちを見物する人々が視線を向けていた方向に、英国公使館があった御殿山があることも、ここから見るとよく分かります。

Shinagawa photo真夏のような陽気なので、熱中症には要注意。せっかくなので(記念に?)土蔵相模跡のコンビニで各自冷たい飲物を仕入れ、更に街道を下っていきます。途中ちょっと脇に外れていくと、そこには映画のラストシーンで、佐平治が杢兵衛大盡に無理矢理連れて来られる、お墓のシーンに登場する海蔵寺があります。江戸時代ここはいわゆる「投込寺(なげこみでら)」といわれ、鈴ヶ森の刑場で処刑された囚人や無縁仏が弔われましたが、品川遊廓の娼妓の大位牌も祭られているのだそうです。

Shinagawa photo歩行新宿から北品川宿、そして南品川宿と、一つの宿場町なのにかなりの距離があります。そこをようやく通り抜け、青物横丁駅に近付いたところに、「千躰荒神」を祀る海雲寺があります。映画の中でもこの荒神さまのお祭りのシーンが登場しますが、護摩堂(本堂)は60年前の撮影当時そのまま。iPadで本堂前のシーンを流しながら見比べると、地べたに近い位低い位置から撮っていたことが分かります。ここでは平蔵地蔵にもお参りしました。

Shinagawa photoそして最終目的地の、品川区立品川歴史館に辿り着きました。ここには大森古墳に始まり、原始・古代から現代にいたるまでの品川の歴史を学べる様々な展示があるのですが、中でも江戸時代、東海道第一の宿場町として栄えた品川宿に関する展示が充実しています。特に目的だったのは、二階の展示室にある「土蔵相模」そのものの精巧なミニチュアです。

Shinagawa photo映画で使われたのは勿論セットですが、それも緻密な考証を元に、文久2年当時の土蔵相模を実に丁寧に再現したものでした。このミニチュアも作りがそっくり同じなので、映画の舞台となった相模屋の、街道側の入口から入って階段を下りると海側の一階に出るという、表から見ると二階建て、裏から見ると三階建てという、傾斜地に建てられた特殊な立体構造がとても良く分かります。それに加えてミニチュア模型のそこかしこから、映画の登場人物たちが今にも出てきそうな錯覚にも陥ります。

Shinagawa photoまたこの二階の展示室には、開業した当時の品川駅(日本の鉄道開業は新橋・横浜間ではなく、仮開業の品川・横浜間の方が早い)のミニチュアもあります。さっき学生たちと品川駅に集合し、そこから歩いて渡ってきた八ツ山橋までが、明治5年当時の姿で再現されているのですが、これは映画の中で佐平治がおひさに言った台詞「十年もすれば世の中もすっかり変わるぜ」の通り、「幕末太陽傳」の舞台であった文久2年から数えて、丁度10年後の光景なのです。

Shinagawa photo品川歴史館には美しい庭園があり、その一角に松滴庵という茶室があります。昭和初期に建てられたこの建物は、かつては定期的に一般公開されていたようですが、老朽化が進んだ現在は保全のため、中に入ることは出来ません。外からだけその佇まいを見物させてもらい、今日の見学は終了。この後大井町駅まで歩いて戻り、そこで解散となりました。全行程約4時間を、ほぼ歩きっぱなしのツアーでしたが、全員無事歩き通しました。さて今日一日で、どんなことが記憶に残ったでしょうか。みんな、お疲れ様でした。

領域研究・神志那弘志さん

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