2013年1月22日の二年生「マンガ基礎演習Ⅳ」の授業で、マンガ家の武富健治先生をゲスト講師としてお迎えしました。本学科伊藤剛准教授担当であるこの授業の最終回であり、ドラマが話題となった武富先生の『鈴木先生』の劇場版映画公開の前週でのゲスト講義となりました。
今回のゲスト講義は、事前に「徹底した対話を描く」という課題を出し、学生が描いた4ページのネームを武富先生が講評するというものでした。
この課題内容は、まさに「徹底した対話」を描き、作中の白熱した議論、しかも容易には結論の出ない議論を読ませることをエンターテインメントとしたという『鈴木先生』を受けてのものです。
『鈴木先生』を読んだことのある方なら承知と思いますが、1ぺージあたりのコマ数を多くとったり、膨大な量のセリフを詰め込んだ構成は、一般的なマンガのセオリーでいえば「反則」と呼んでいいものです。その「反則」が商業的にも、表現としても成功したという事例からなんとか学ぶことはできないだろうか? というのが武富先生にゲスト講師をお願いしたコンセプトでした。これは学生に「反則」体験を意図的にさせるというアクロバットであり、どのようにすれば実現できるかはそれなりの難題でした。
そこで、武富先生と伊藤准教授の間で事前に綿密な打ち合わせを行い、「マンガ家志望の若者が編集者とのネーム打ち合わせの場で、理詰めで直しを迫る編集者に対して、自分が何を描きたいかという考えを言語化し、編集者を説得しようとする場面」を二見開き(4ページ)で描く、という課題を出しました。
少々難易度が高いのでは……? 脱落者続出なのでは……? と思われましたが、学生さんが提出してきた作品は力作ぞろいで、武富先生も驚かれていました。ちなみに、マンガ家志望の若者のキャラは自分の分身、編集者のモデルは伊藤准教授という設定です。
武富先生の評価ポイントは、たとえば作中の主人公が「言い訳するだけではなく代案を出しているかどうか」と「対話の中でも、ノリの部分ではなく議論の内容そのものがエンターテインメントになっているかどうか」といったものでした。またそれに留まらず、学生自身がこの課題という場を用いて「自分の描きたいもの」を明確にしていく過程もありました。
「マンガ基礎演習Ⅳ」と前期の「基礎演習Ⅲ」は、コマわりを用いた演出方法の基本的なテクニックと、それを読み切り作品のストーリー構成と結び付ける技術について繰り返し演習を行うものです。二年次までの基礎的な授業を終えて、三年次以降学生はオリジナルの作品製作を中心としたカリキュラムに取り組みます。ここから先は個々の学生は「作家」としての自分を見出さなければならなくなります。武富先生の講義は、そのための貴重な経験となったのではないでしょうか。
<武富健治先生コメント>
いや~面白かったですね。でも学生さんは相当大変だったはず。
苦しんで苦しんで、何かひねり出した人もいれば、思いっきり逃げた人もいましたが、お話にならない作品はひとつもなかったです。
「高度」な、つまり単なる逸脱ではなく勝つための工夫を尽くした「反則」を要求するという授業だったわけですが、それに対して反則する(=反則しないで常道で逃げる)ということは、結局一回りして「つまらない」「あききたりな逸脱」に陥るということです。
と言い切りたいところですが、中には逃げ切ってもなお面白い作品が、悔しいけれども、いくつもあったんですよね。もちろん一番感動したのは、向かい合って何かひねり出した方の作品でしたが。
ぼく自身も、苦手なことを無理やり自分に課して自分の幅を広げたこともあれば、正直逃げ切ったまま今に至るということもあるように思います。どの道にも、成功者と失敗者はいるのが漫画の世界。カンを鋭くして、無理を押して頑張ったり、場合によっては逃げ切ったり、自分に合った道を見出して欲しいですね。こうしておけば間違いないという王道はないですが、若いうちはとにかくがさがさとたくさん作品を描いて完成させることが、多くの人にとっては有効みたいです。
ぼくもいろいろ皆さんの作品から「盗ませて」いただきました。そして作品だけでなく皆さんご本人からも直接パワーを頂きました。ぼくからも何かみなさんに与えることが出来ていたらうれしいです。
それにしても伊藤先生、お疲れ様でした。出題のテキスト全文をここに載せてもらいたいくらい、最高に面白い出題でした。貴重な機会をありがとうございました! ……全然「一言」じゃないですね(苦笑)