基礎教育教授の牟田淳です。主に理学と芸術を融合させた分野の研究、制作、執筆等をしています。
今年度は各教員の授業・研究紹介という事ですので、簡単に私の活動内容を説明させていただきます。
私は東京大学理学部物理学科を卒業し、その後同大学院理学系研究科物理学専攻において原子核理論の研究を始め博士号を取得しました。
すると多くの人はこう思うかもしれません。なんで今、理学と芸術を融合させた活動をしているの?と。
実はこの質問は学会だけでなく色々な場で聞かれます。そこで、この機会を借りて簡単に説明したいと思います。
この疑問に答えるためには、私の経歴をもう少し詳しく説明する必要があります。
私は原子核理論に関する博士論文を書いて学位を取得した後、筑波大学、東京工芸大女子短期大学部等に採用された後本学芸術学部に着任しました。芸術学部に着任した時、自分の立ち位置を考え、今後何をすればよいか色々考えました。
着任当時(今も)、本学では「工芸融合」がしばしば話題に上っていたので、まずは「理学と芸術の融合」つまり「サイエンスとアートの融合」はどれくらい行われているか調べてみました。すると、いわゆる「テクノロジーとアートの融合」は結構行われていましたが、理学者としての「サイエンスとアートの融合」はほとんど行われていなかった事に気が付きました(世間で「サイエンスアート」と呼ばれるものには、厳密には「テクノロジーアート」であるものが多いです。サイエンスは理学(物理、化学、生物、地学等)、テクノロジーは科学技術です。学部で言えば、テクノロジーを学ぶのは工学部、サイエンスを学ぶのは理学部となります。)。例えば理学部出身の人が(工学でなく)理学の立場から芸術系の融合分野で実際に売れる書籍を執筆したり、科研費を代表で現実に取得したり、査読論文を書いている事例はほとんどなかったのです。
そこで、理学者が「サイエンスとアートの融合」を行っている大学教員はまだ少なく且つ今後発展性があるだろうと考え、テクノロジーとは差別化して、理学と芸術の融合の活動を始めてみようと思いついたのです。
様々な試みをしましたが、当初はあまり成果はありませんでした。しかし本学での授業や理学と芸術の融合活動をどんどんホームページに載せたところ、4年目あたりからホームページを見ましたという事でいろんな大手出版社等から執筆依頼などの仕事依頼が舞い込み、「アートのための数学」等、沢山の本を執筆することができました。学会などに行くと、研究者に牟田先生の本を読みましたとか言われた事もありました。テレビやラジオに出演したり、全国紙の取材、そしてビートたけしさんとの対談なども行いました。もちろん、大学教員ですから学会発表はもちろん査読論文を書いたり、「デザイン学」で科研費も代表者として獲得したりしました。
このようにしてみると、自分自身の経歴(理学博士)を生かしながらも、自分がいる環境(芸術学部)の利点を積極的に取り込んでいったことがよかったのだと思います。今後も自分の経歴を生かしながら、様々な事に挑戦していきたいと思います。