*この記事は小川真人基礎教育教授が執筆しました
いま西新宿の東京オペラシティタワー四階の「インター・コミュニケーション・センター」(ICC)で「ICC アニュアル2022 生命的なものたち」展が開催中です。
今回は「生命的なものたち」(Life/Likeness)展です。展示案内によりますと、われわれの生活環境はコンピュータ技術システムとのかかわりをますます深めていますが、人間とコンピュータとの媒介におけるアルゴリズムの生命的なふるまいは、生活環境へのコンピュータの自然な浸透の推進に重要な役割を果たしています。また、自然の再帰性や偶然性に着目した自然のメカニズムの解析から発して、テクノロジーによってもう一つの自然をシミュレーションし、さらには新たな生命のあり方を切り開くという動向もあります。IOT(物のインターネット)とも関連する今日の情報環境は、「組織化する無機的なものの時代」でもある、つまり、人間をとりまく技術的環境それ自体が「生命的」なシステムとして理解できるというわけです。
今回の展示では、このような視点から「生命的」という観点からさまざまなメディアアート的アプローチが紹介されています。ここでは三つの作品を検討したいと思います。
まず、村山悟郎《Painting Folding 2.0》[2022]です。らせん状の麻紐の織物が垂れ下がっている作品ですが、これは「タンパク質フォールディング(折り畳み)」という発生プロセスとの関連をもった構造だそうです。村山は「織物絵画」シリーズの作家ですが、タンパク質形状をアミノ酸配列情報から予測するソフトウェア「AlphaFold」を利用して、自分の「織物絵画」の三次元構造からアミノ酸配列を計算しその情報を予測計算にかけて、存在しうるタンパク質構造設計を試みました。人間の作ったフォルムがAI機械学習の予測計算構造に変換され3Dプリンターで出力されるプロセスに、「生命的なもの」をめぐる問いかけがあるのでしょうか。
つぎに、nor《syncrowd》[2022]についてです。この作品は、台の上に乗ったいくつかの振り子がばらばらにゆれ、それがやがて動きがそろい、全体で一様な動きになっていくのを、動きと連動して発せられるサウンドとともに鑑賞する、いわゆる<キネティック・サウンド・インスタレーション>です。個々別々のバラバラな動きが、互いに干渉しあい、「群れ」crowdをなすようになって、あたかも高性能のコンピュータの演算で制御されているかのように「同期」syncしていく過程にはたしかに「生命的なもの」を感じさせるような瞬間があります。
三つ目は、ラービッツシスターズ《クリプト・マイナー・カー》[2020]“Crypto Miner Car”ですが、これは暗号通貨と電力消費的環境負荷という社会的な問題提起を含んだものです。いわゆる暗号通貨の「マイニング」の処理には膨大な電力消費が伴いますが、本作はGPUユニットに改造を施すことで処理に随伴して発生する廃熱を回収する仕組みを作りだしました。その廃熱は自動車の動力を賄うのにも使用されるとのことです。暗号通貨やいわゆるWeb3.0あるいはメタヴァースの方向がいま大きな関心を集めているなかで、新たな情報技術の環境負荷の問題解決に興味深い提案をメディアアート表現によっておこなっている作品です。
本展は来年1月15日まで、本学中野キャンパスからほど近い初台の「ICC四階ギャラリー」で展示されています。時間に余裕などがありますときにご覧になると、メディアアートを通じたアート体験または知的刺激をうけるかもしれません。いちど足をはこんでみてください。なお入場は事前予約者優先ですが当日券販売もありますのでご利用ください。