*この記事は、高木聖基礎教育教授が執筆しました。
芸術学部基礎教育の髙木です。
東京工芸大学芸術学部では現在、「経済学概論」、「社会学概論」、「日本語表現法B」、「マーケッティング論」、と4種類の授業を担当しています。いずれも共著を含みオリジナルのテキストを使用していますが、「多岐にわたる領域をひとりで担当する」ことに疑問を抱かれる向きもあろうかと存じます。
岩井克人氏によれば「人間は(1)貨幣、(2)法、(3)言語を通じて人間になる」とされています[※1]。
(1)貨幣を媒介にすることでいつでもどこでもだれが相手でも交換できる自由を得られた。
(2)法の媒介により、所有や契約、損害賠償の自由を得られた。
(3)言語の媒介によって未知の相手とも意志の疎通ができる自由を得られた。
「経済学概論」では貨幣の機能から説明しています。貨幣が貨幣であるためには三つの機能を同時に満たす必要があります。すなわち①計算の単位、②支払いの手段、③価値貯蔵の手段です。たとえば電子マネーはあいにくその設備を売り手が用意していない場合があるため、「貨幣」とは呼べません。
「社会学概論」では人間の行為を制約し、社会に安定と秩序をもたらすものとして社会規範を取り上げています。社会規範には従わなくても特にペナルティのない慣習、従わないと非公式な制裁を受ける習律と並んで、従わないと公式の制裁を受けるものとして法が含まれます。
「日本語表現法B」はコミュニケーション領域の科目です。当初「ライティング基礎演習」として設置され、実践的に言語を書く能力を育成するキャリア関連科目でもあります。以前勤務していた東京工芸大学女子短期大学部の授業では「文書管理」・「文書管理演習」の一部を継承するものです。女子短期大学部は惜しまれつつその歴史を閉じましたが、その教育内容はきわめて好評で現在も芸術学部の教育に活かされています。
「マーケッティング論」は法に守られた社会の中で、貨幣と商品やサーヴィスとを交換する仕組みを学ぶものです。当然市場では売り手と買い手とにコミュニケーションが必要であり、言語が媒介となっていることは言うまでもありません。
一見無関係に見える4種類の授業にはこのように人間を研究する共通の要素があります。
基礎教育の末席を汚すものとして、こうした授業を通じ、人間というものを理解していただけるよう努力を続けていきたいと存じます。
※1 岩井克人著 『経済学の宇宙』 日本経済新聞社 2015年