みなさん、こんにちは。6月のリレー連載は基礎教育教授の石川健次が担当します。今年のお題は「自身の授業や研究」です。さて何を、と思いつつ、実は明日が締め切りの週刊誌のコラム記事が気にかかり、どちらも手がつかずに宙を見つめながらいたずらに時を過ごしています。そうこうするうち、「あ、そうか。コラムのことを紹介しよう」と思いました。
現在、週刊誌2誌に美術のコラムを連載しています。ひところは若い女性向けの雑誌などにも書いていましたが、ずいぶん前に打ち切りになりました。近現代美術や博物館論、美術批評を専門にする私としては、美術や美術館への関心が希薄になるのは残念でなりません。でも一方で、美術や美術館への関心は決して衰えてはいないと強く実感もしています。
仕事柄、平日にもちょくちょく展覧会を見に行きますが、たくさんの中高年で身動きが取れないときがあります。いつ、どこの美術館に行っても、ほとんどの場合で中高年ばかりが目につく、と言って過言ではない気さえします。中高年に支えられ、美術や美術館は我が世の春を謳歌している、とまでは言いませんが、そうした方々には美術館はコアな存在のように思います。中高年の一員である私にとっても、です。
こういう状況下では、売れないよりは売れたほうがいいに決まっている週刊誌で美術コラムを書く際、悩むことも少なくありません。中高年を意識して、そういう人が好む展覧会や内容とするべきか。それとも美術や美術館に関心が薄い人たちへ向けて、とりわけこれからを担う若い世代のそうした人たちに足を運びたいと思ってもらえる内容に努めるべきか。でもそもそも若い人たちの活字離れという現実を思えば、中高年向けがやはり順当か――などなど。
例えば、私がアートのコラムを担当している連載誌の1つである『サンデー毎日』(毎日新聞出版)=図版=は、私が見るところ主な読者層が比較的中高年ということもあって、自然とそちらの目を意識することが少なくありません。とはいえ、中高年が好む展覧会や内容というのも実は明確ではなく、はっきり言って私の独断や偏見でしかない、とも思っています。
老若男女に愛される展覧会、内容であればともかく、確信的なファン層に支えられたジャンルや最新のテクノロジーを駆使した最先端の表現など、年々深化、あるいは先鋭化、多様化するアートを目に見えない誰かに、できればあらゆる人に受け止めてもらえるように書く難しさを毎週かみしめています。ある人には美術の魅力を再発見したと喜んでもらえ、またある人には美術の魅力に気づくきっかけとなるような文章を書きたいと常々願っています。