基礎教育教授 大島武
今年のリレー連載3で、松中准教授が自分は幼少のころから「本の虫」であったと書かれていますが、私は逆で、全くと言っていいほど本を読まない子どもでした。二十代前半くらいまでは本当にマンガ専門。子どものころの読書といえば、感想文を書くためにイヤイヤとか、受験のために参考書を読むとか、必要に迫られてやる作業であり、決して楽しみではなかったのです。
少し変わり始めたのは企業に就職してからで、通勤時間を利用して文庫本を読むようになりました。ただし、ジャンルは限られていて、ほぼミステリーか歴史小説オンリーでした。それほどワクワクして読んだというわけでもなく、電車の中で他にやることもないので仕方なく・・・。今の時代の若者だったら携帯ゲームに流れていたことでしょう。
そんな私になぜか、雑誌の新刊書評欄を担当してほしいという依頼がありました。できるのか大いに不安でしたが、頼まれた仕事は基本何でも受けるのが自分のモットー。ビジネス誌「プレジデント」での執筆が7年前にスタートしました。すると、これが存外楽しいのです。担当は年に4回なのですが、それぞれ発刊3ヶ月以内の本を選ばなければなりません。毎回7~8冊まとめ買いして目を通し、①自分にとって面白いか ②他の人に自信をもって勧められるか ③書評が書きやすいか ④ジャンルや出版社に偏りがないか などを考えながら絞り込んでいきます。
必ずしも自分の趣味じゃない本でも、真剣に読むとたいてい面白いし、思わぬ知見に出会えることもある。そのことを実感したのは、書評欄を担当するようになってからです。「自分はこういう人間で、これとこれが好き」「自分らしさを生かせる職業に就きたい」。若いうちはそのように考えるのが自然かもしれません。でも時間つぶしに読んだ本が意外とためになることもあるし、渋々やっていた仕事がいつしか自分の得意分野になることもあります。あまり自分に枠を嵌めずに少し守備範囲を広げ、何にでもチャレンジしましょう、というのが今回のブログの趣旨です。
さて、プレジデント誌で紹介した本の数が前回でちょうど30冊になりました。もう一度読みたいと思わせる私なりのベスト5を紹介します。
1.楠木建著『ストーリーとしての競争戦略』(2010 東洋経済)
分厚い本ですが、著者の語り口が良く、題名のとおりストーリー性の高い内容になっています。本書はビジネス書としては異例とも言える売れ行きをみせ、ベストセラーになりました。
2.上田比呂志著『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』(2012 クロスメディア)
ディズニー大学で学んだ著者がディズニー流のホスピタリティを語ります。彼は老舗旅館のお坊ちゃまでもあり、和風洋風とりまぜた「気づかい論」が秀逸です。
3.フィル・ローゼンツワイグ著『なぜビジネス書は間違うのか』(2008 日経BP社)
いわゆるハロー効果をベースに、ビジネス書に蔓延する「後づけ」の理論を批判しています。有名な本も形無しにこき下ろされていて、かなり痛快です。
4.太田肇著『承認とモチベーション』(2011 同文館出版)
人は褒められ、承認されるとよい大きな力を発揮する。多くの人が信じているこんな定説、誰かちゃんと調べたのか・・。その問いに答える緻密な学術調査の結果が興味を惹きます。
5.安藤祐介著『被取締役新入社員』(2008 講談社)
唯一小説からランクイン。無能社員の羽ヶ口君が入社したことで、社員の間に精神的安寧が生まれ、職場の生産性が上がる。人間の本性のようなものを考えさせる一冊です。
事情により書評は書けなかったのですが、もう一冊おススメ。
【番外】大島 武・大島新著『君たちはなぜ、怒らないのか』(2014 日本経済新聞出版社)
映画監督大島渚が残した50の言葉をめぐり、二人の息子が思いを綴った感動の一作。人生のお伴に、明日への活力に、ぜひ一冊でも二冊でも買って読んでみてください。
・・・なんだ、結局最後は自著の宣伝じゃないか。こんな突っ込みが出ることでしょう(笑)。いえいえ、本稿の目的はあくまでも、「気乗りしなくても読んでみる、チャレンジしてみるといいことあるかもよ」、これに尽きます。CMで終わるのは心苦しいので、英語の古い言い回しをご紹介しましょう。自然体だけがいいのではなく、時には無理してもやってみる、習慣づけてみる、するとだんだんサマになってくる、そんな風に私は解釈しています。
Custom is the Second Nature.(習慣は第二の天性)
それでは、また来年お会いしましょう。