芸術学部 基礎教育

2014年度リレー連載 第3回:「最近読んだ本から」

*この記事は、松中義大 基礎教育准教授が執筆しました。

最近の基礎教育ブログは、春季公開講座やあつぎ協働大学の報告記事といった読み応えのある重厚な内容が続いていますので、リレー連載の方は、少し軽い内容にしたいと思います。

私は中学生くらいからいわゆる「本の虫」で、暇さえあれば本を読んでいました。それも「乱(濫)読」というやつで、手当たり次第にむしろ他の人が読まない本に手を出し、おもしろい本に当たる時もあれば、難解で歯が立たない時もありました。

(最近、国際基督教大学図書館で「誰も借りてくれない本フェア」というのをやっているそうですね。私の母校であり、借りられていない本を学生時代にはよく借りたのですが、まだまだそういう本があるようです。そういう意味では図書館は「汲んでも尽きることのない井戸・泉」です。)

最近は公私ともに忙しく、なかなか本と向き合う時間が取れないのが残念ですが、今回は最近読んで興味深かった本をいくつかご紹介したいと思います。

1.與那覇潤『日本人はなぜ存在するのか』(集英社インターナショナル 2013年 ISBN: 978-4797672596)

愛知県立大学准教授で歴史学者の與那覇潤氏が、大学でご自身の担当する教養科目を活字化したものです。「日本人とは何か」をキーワードに、いわゆる人文系の様々な学問分野を紹介しつつ議論していきます。大学の授業の雰囲気を味わうことが出来ますし、これまで常識と思っていたことが覆されていく(新たな視野が開かれる)感覚が味わえると思います。與那覇氏の他の本では、『中国化する日本』(増補版、文春文庫)や、東島誠との共著『日本の起源』(太田出版 2013年)は、高校までで習った日本史が新たな研究成果や視点によって別の見方が出来ることを提示し、興味深い著作です。

2.高野陽太郎『「集団主義」という錯覚:日本人論の思い違いとその由来』(新曜社 2008年 ISBN: 978-4788511156)

「日本人は集団主義的で、アメリカ人は個人主義的だ」とよく言われるのですが、この本では心理学の実験によって逆に日本人は個人主義的であることを示しています。実験そのものの説明はとても説得力を持つ記述になっていますが、誤解を恐れず申し上げれば、心理学者は眼前の人間が研究対象となるので、「文化・世界観」というきわめて曖昧で不明確なものの役割をなるべく小さいものにしようとしているのではないか、という感想を持ちました。それでも広く受け入れられている、共有されている考え方が「果たして本当にそうか」と疑問を抱く、ということの大切さを実感した本でした。

3.寺沢拓敬『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社 2014年 ISBN: 978-4327410889)

学習指導要領では、2002年まで中学校の英語は「選択科目」でした。「えっ、必修じゃないの?」と思われるかもしれませんが、制度上は選択科目の扱いでした。太平洋戦争後からの英語教育の歴史を詳しく見ながら、なぜ実質的には必修科目として扱われるようになったのか教育社会学の観点から論じています。数年前、本学芸術学部の英語教育をどうするかで大きな議論となったことがありましたが、この本を読んでみると、その時の論点は実は日本が英語教育を導入した時からずっと論じられてきたものなのだと痛感しました。また、「なんで英語を勉強するのか?」と聞かれれば、「入試に必要だから」「国際社会で重要だから」と言った答えが返ってくるわけですが、戦後、特に地方の高校では大学進学率が低く、家業の農業などを継ぐケースが多い状況では、生徒から「なんで英語を勉強するのか」と聞かれた先生はどのようにその問いに向き合ったのでしょうか?受験はしないし、日常生活では英語を使うことは将来的にもまず無い状況だったからです。この本ではそうした先生たちの苦悩と葛藤も描かれています。

4.小田島隆『ポエムに万歳!』(新潮社 2013年 ISBN: 978-4103349518)

コラムニストの小田嶋隆氏の本です。氏は「ポエム」を次のように定義しています。「書き手が、詩であれ、散文であれ、日記であれ、手紙であれ、とにかく何かを書こうとして、その「何か」になりきれなかったところのものだ。その、志半ばにして、道を踏み外して脱線してしまった文章の断片が、用紙の上に(あるいは液晶画面の上に)定着すると「ポエム」になる。」メディアの発達とともに、今の日本語はまさに「ポエム化」しているように感じます。もちろん、私的な文章ならばそれはさして問題ではないかもしれませんが、公的な文章や新聞、テレビなどでさえそうなってしまうのはあまり好ましいことではありません。軽妙な語り口で世相を斬る筆致が、読んでいて痛快です。

5.今橋理子『兎とかたちの日本文化』(東京大学出版会 2013年 ISBN: 978-4130830614)

4月のリレー連載で大森先生がデューラーの『野うさぎ』の絵を紹介されていましたが、ウサギ関連の本を一冊。日本では古くからウサギは信仰の対象(多産の象徴)や、様々な図像のモチーフになってきました。これらは現代に受け継がれていますが、その本来の意味から今はやりの「かわいい」という意味づけに変わってしまっていることが多いようです。そして、この「かわいい」から離れて本来の意味やその歴史・文化を理解することが難しくなってしまっています。伝統や文化を守るということ、また、最近日本文化の特徴の一つとしてもてはやされている「かわいい」とは何かを考える上で参考になる本です。

また機会があれば他の本もご紹介したいと思います。

皆さんもぜひたくさん本を読んで自分の視野を広げ、さらにいろいろな知識を吸収していきましょう。

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