芸術学部 基礎教育

公開講座 第2回「コミュニケーションと日本人」 

*この記事は、松中義大 基礎教育准教授が執筆しました。

芸術学部公開講座(2014年春季)「現代社会とコミュニケーション」

第2回「コミュニケーションと日本人」

5月24日にスタートしました芸術学部の春季公開講座第2回目が5月31日に行われ、松中が担当致しました。当日は大きく分けて以下の3つのことを扱いました。

まず、コミュニケーションの基本的な考え方を概観しました。例えば、デート中のカップルの間で以下のような会話が行われた時を考えて見ます。

太郎:もうこんな時間だ。

花子:ほんとだ、でもまだいいでしょう?


この時、花子さんの「でもまだいいでしょう?」という発言は、無意識のうちに「太郎は帰りたがっている」という推論が下敷きになっているわけです。このように、日常会話ではやりとりされる言葉だけでなく、言外の情報(文脈)も重要や役割を果たしていることになります。

次に、アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールの「高文脈文化・低文脈文化」という用語を元に、日本人のコミュニケーションの特徴を学びました。日本は高文脈文化(文脈への依存度が高い文化)の傾向が強く、コミュニケーションも文脈の果たす役割が大きいため、やりとりされる言葉以上の意味が伝わりやすくなります。つまり、あまり言葉を使わなくても意思疎通が図れるので、見方を変えれば日本人はコミュニケーションが得意とも言えるわけです。しかしなぜ巷では「日本人はコミュニケーションが苦手」と言われるのでしょうか?高文脈文化とは反対に、欧米では低文脈文化的傾向が強く、見えない文脈には頼らずに言葉で明確に自分の意見を主張するため、言葉のやりとりの量が増えることになります。現代の日本は、欧米流の世界観・価値観が幅を利かせているため、自分の意見を言葉で明確に表現することが求められています。つまり、低文脈文化的傾向が強まっているわけです。さらには、高文脈文化は共同体(家、集落、など)の濃密な人間関係が前提となるのですが、今では人間関係が希薄化し、高文脈文化様式のコミュニケーションが難しくなっています。こうしたことから、あえて言えば「日本人は低文脈文化様式のコミュニケーションが苦手」という状況にあるのです。

最後に、コミュニケーション・スタイルの違いは、上で見たように文化の違いを反映していることになりますので、日本と西洋の文化の違いについて学びました。キーワードとして「主客対立」「主客合一」を提示し、自己が他者と対立関係にある欧米の価値観と、自己と他者との間に対立が生じづらい日本の価値観を、日本語と英語の違いから始まって、自然観、絵画様式などを例に出しながら比較・検討しました。また、ドイツの哲学者で、日本に滞在中弓道に挑んだオイゲン・ヘリゲルについて触れ、異文化を体得するとはどういうことか学びました。

ライシャワー元駐日アメリカ大使は、著書『真の国際化とは』の中で「日本人の多くは、国際化とは日本式の生活様式や価値観を西欧化することだと考えている」と述べました。この言葉は21世紀のグローバル化する日本についても当てはまるでしょう。日本の文化の無批判な礼賛は厳に慎まなくてはいけませんが、ただ単に欧米流の文化やコミュニケーション・スタイルを無批判に受け入れることがグローバル化なのか、よく考える必要があるということを申し上げて講座を終えました。

とても暑い日でしたが182名の方にご出席いただきました。後半は抽象的な話が続いて難しかったのではと反省していますが、参加された皆さんはとても熱心に聴いて下さり、大変ありがたかったです。

松中義大(基礎教育・准教授)

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