リレー連載「授業紹介 外国文学 アートの源泉としての文学」

*この記事は、鈴木万里基礎教育教授が執筆しました。

基礎教育の鈴木万里です。「ジェンダーとアート」「外国文学」「英語基礎」「上級英語I」を担当しています。以前「ジェンダーとアート」についてはブログに掲載したことがありますので、今回は3・4年生対象の「外国文学」をご紹介します。

この科目では、繰り返しアート作品の素材となってきた西洋の文学を取り上げて、その歴史的背景、テーマ、魅力についてお話ししています。文学を知ればより深くアート作品を理解することができますし、創作する時にも文学の素材がきっと役立つはずです。

伝統的に芸術は文学を視覚化してきました。西洋絵画では聖書や古代ギリシア・ローマ神話の一場面を描いた「物語画」が最も高く評価されたことはよく知られています。つまり、もともと「現実」を再現することではなく、「フィクション」を描くことがアートの役割だったのです。というわけで、最古のフィクションである、神話や聖書の物語から講義を初めています。

聖書というと縁遠いと感じる方が多いかもしれませんが、普遍的なテーマをもつ興味深い物語がたくさん含まれています。たとえば、旧約聖書の「カインとアベル」は兄弟間の嫉妬が家庭内殺人を引き起こすという話で、『エデンの東』(1955)というアメリカ映画のもとになっています(原作はスタインベックの小説です)。また、「ノアの洪水」は大災害を生き延びるサバイバルものの元祖で、高層ビルが火災になる『タワーリング・インフェルノ』や、豪華客船が沈没する『タイタニック』などと共通の構造をもっています。概してアメリカ映画は聖書の影響や言及が目立つので、もとのエピソードを知るとより深く鑑賞できます。

ギリシア・ローマ神話はルネサンス期以降に数多くの作品を生み出しました。「音楽神オルペウスの黄泉下り」(死んだ妻を迎えに冥界を訪ねて、あと1歩のところで失敗する)は、絵画、演劇、映画など西洋のアートでもっとも頻繁に取り上げられた物語です。かつて学生時代にジャン・コクトーの映画『オルフェ』(1949)に夢中になりました。また、ホメロスの『オデュッセイア』はトロイア戦争後にオデュッセウスが10年かけて帰宅する話ですが、怪物や魔女が満載の冒険談でファンタジーの元祖といえます。

作品はごく少ないのですが、ゲルマン神話やケルト神話も取り上げています。15年前にこの科目を担当し始めた頃には知っている学生はごくわずかでしたが、最近はゲームの興隆に伴って、ゲルマンの神々オーディンやロキ、ケルトの英雄クーフーリンが有名になりました。ゲルマン神話について本を出版した卒業生もいるくらいです。今後も神話はさまざまなジャンルのアート作品の素材として活用されることでしょう。

神話の次に伝説的人物像を扱います。モダン・ファンタジーの源泉となっているのがアーサー王物語です。500年頃に英国で活躍した軍人がモデルと推測され、12世紀~現代まで、数えきれないほどの文学、音楽、映画、アニメーション、ゲームに登場しています。トールキンの小説『指輪物語』(『ロード・オブ・ザ・リング』の原作)、映画『スター・ウォーズ』もアーサー王伝説を下敷きにしています。今後もアーサー王や円卓の騎士は数多くの作品を生み出していくことでしょう。

「アーサー王の円卓」の視覚的イメージは12世紀に英国で作られたテーブルがもとになっています。ウィンチェスター城の大広間の壁に掲げられています。円卓に着席できたのは13名、150名、1600名と諸説あります。もし1600名が着席できたならば、テーブルではなく円形競技場だったかもしれません。カーリオン(都キャメロットの候補地のひとつ)にある6世紀頃の砦の遺跡でその姿を想像できます。

円卓<ウィンチェスターで購入した絵葉書より>

砦の遺跡<パンフレット”Caerleon Map”より>

アーサー王が正統派ヒーローの代表とすれば、その対極に位置するアンチ・ヒーロー代表がファウストです。手塚治虫が生涯に3回も漫画化し、最後まで『ネオ・ファウスト』を執筆していたことはよく知られています。ファウストは16世紀ドイツに実在した知識人ですが、博士号を取得しながら何ら業績を残していない・・・それどころか、詐欺師まがいの不審人物だったようです。しかし死後わずか30年ほどで伝説化し、物語詩、人形劇、戯曲などが大流行しました。あらゆる欲望を叶えるために悪魔と契約して25年後に魂を売り渡す怪しげな科学者の悲劇は、人々の心を強くとらえ続けたのです。19世紀にはゲーテが『ファウスト』を執筆して古典的名作となり、映画化もされています。ですが、現代ではファウスト像は、テクノロジーの発達(クローン技術、遺伝子操作、核エネルギー利用)が果たして人間に幸福をもたらすのか、それとも破滅をもたらすのか、といった文脈で描かれることが多いようです。

世に「名作」と言われる作品は、必ずしもまったく新しい発想から生まれるわけではありません。むしろ、先行する作品に新しい解釈や価値観を加えてできています。「文学は模倣と反復である」と言われます。アート作品もまたそうです。先行作品をよく知ることが新たな創作のヒントになるはずです。履修する学生の制作に少しでも役立つことがあればうれしいなと思いながら毎年お話しています。

 

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